15話 ごめんなさい

「僕はこれからどうすればいいんでしょうか」


「好きにするといいわ。自分の恩恵情報を訂正するのもいいし。きっとパーティー勧誘がひっきりなしになるわよ」


「……そう、ですかね」


「まあじっくり考えなさい。自分がどうしたいのか。その力で何を成したいのか。正直私には身に余る案件だし、こればかりはあなたの選択次第ね」


 エルファさんは突き離すように言った。

 少し冷たいなと思う。

 でもその通りだとも思った。

 これは僕の問題だ。これ以上エルファさんを巻き込むわけにはいかない。

 散々迷惑をかけた。今日なんて危うく死んでしまうところだったんだ。

 僕の都合で。僕の身勝手で。大切な人を傷つけた。

 エルファさんは以前に「次はどうなっても知らない」と言った。

 それなのに今回も僕を助けてくれた。僕の身を案じて、僕にとっての最善を選んでくれた。


「私は明日も仕事があるからもう自分の部屋に帰るけど」


「……すみません。ありがとうございました、色々」


「気にしないで。成り行きよ、全部」


 部屋を出ていくエルファさんを見送る。

 エルファさんは明日からも僕と話してくれるだろうか。

 僕はあの人の顔をちゃんと見れるだろうか。

 うんざりされて嫌われたって仕方がないことをしでかした。

 強くなってひとり立ちする、それが僕の目標だった。

 僕は強くなったのだろうか。強さってなんだろう。恩恵ひとつで環境が変わるなら、僕でなくたっていいじゃないか。


 その日の夜。

 僕はガルフの傷を確認する。

 包帯を取ってみると、火傷はほとんど治っていた。

 焦げた毛はなかなか戻らないだろうけど、これなら明日には……。


「……明日には?」


 明日には、なんだ。

 ガルフの傷が完治したとして、僕はそれからどうするつもりだ。

 ガルフは僕に心を許したわけじゃない。

 僕が恩恵を解除すれば、また昼間のように人を襲う。

 僕の恩恵が魔力を消費する以上、いずれ限界がくる。いつまでもガルフを縛り付けるのは物理的に不可能だ。 


 視界が滲む。

 握った包帯に大粒の雫が滴って湿る。

 どうしようもない感情が僕の胸を締め付けてやまなかった。


「ごめんな。お前は僕のこと、ずっと憎かったんだよな」


 恩恵で縛り付けて、ペットのように扱っていた。

 やりたくもないことを強制されて、行きたくもない場所に行かされ。食べたいものも食べられず。ずっと意識を支配れていたんだ。

 ガルフには僕を憎む権利がある。それが当然なんだ。


 パーティーに興味がない。

 それはまた無能として捨てられることが怖かったから。

 何も言わず僕についてきてくれるお前に依存してたんだ。お前は僕を裏切らないって、そう思ってたから。

 でも違った。お前は裏切れなかったんだな。僕がそれを強制してた。


 僕は弱い。

 僕は一人になるのがどうしようもなく怖いんだ。

 仲間が欲しい。孤独は嫌だ。

 僕を頼って欲しいんだ。僕は頼られたいんだ。

 やっと気づいた。信じられる誰かと一緒に冒険ができたら、僕はもう何もいらないって。


「なんて、お前には関係ない話だよな。ごめん……ごめん……」


 魔物を支配する恩恵。

 とても強い力だ。きっとAランクにだって通用する。

 僕を無能と呼んだハルトさんたちも見返せる。だと言うのに。

 嬉しくなかった。

 エルファさんの説を確かめたとき、僕は間違っていてくれと願ってしまった。

 僕の力は魔物の注意を引きつける、それだけの力だ。それでいいんだと。

 僕は、また一人だ。


 ガルフの頭を撫でる。


「……帰ろうか、ガルフ。お前がいた場所に」

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