偽原子 イミテーションアトム

亜未田久志

第1話 引力からの解放


 人類は引力からの解放を目指して研究を続けた。時は経ち、西暦2122年。ついに人類は地球から縛られる事から脱却する。その名も「偽原子」それは、一人の男が見つけた原子ではない「ナニカ」だった。

 男の名前は――「ゼンノウ・ゼンチ」と言った。

 

「もう偽原子の発見から西暦の名は捨てるべきだ」


 新たな歴史が始まる事に誰も反対しない――訳もなく。

 「新暦」派と「西暦」派に分かれ。カレンダーウォーと呼ばれる大戦争が起こる。

 そこで開発されたのが。

 イミテーションマン、通称「IM」が闊歩する世界になる。

 そしてカレンダーウォーに新暦派のIMが勝ってから、五十年。

 新暦0050年。NY0050。IMを乗り回すテロリストが暴れ回り宇宙進出を阻む世界。

 もう重力に縛られる必要もないというのに、人間は未だ地球に縛り付けられていた。

 ある日、NY0051、一月一日、宇宙圏進出のため、国連が新組織を設立させる。その名も「国際イミテーションマン運用委員会」略して「IM運」テロリスト共に対して抑止力になるように戦いを始めるのだった。

 そしてNY0068年。とある少年は18歳になった、名前を「ゼンノウ・オウジ」と言った。

 若くしてIM運に入った彼は、IMを乗りこなし、跋扈するテロリストを殲滅していた――


「オェェェ……一機、墜とした! 次!」


 ――誰も、彼が一機墜とす度に嘔吐するとは知らずに。


 全長十八メートルの鉄の巨人が浮かんでいる。それが偽原子の働きだ。偽原子はあらゆる物質に作用する。

 巨人の名は「アーチャー」射手の名を受けた戦士。最新型だ。昔はもっと気取った名を付けていた。

 狙うは敵機「アポソル」過去の西暦派の亡霊。

 まずはロックオンターゲットの中心にアポソルを入れるだけ。後は引き金を引くだけで、敵は墜ちる。


「はぁはぁ、押せよ! 俺! ゼンノウの家の人間だって言うならさぁ!」


 トリガーを引く。撃ち込まれる偽原子崩壊砲。コックピットを撃ち抜かれアポソルは天から落ちていく。


「オロロロ」


 また吐いた。コックピットは吐しゃ物まみれだ。


「きったねぇ……」


 我ながらと思う。いつも無理矢理、出撃前に飯を食わされているオウジはその全てを吐き出しているんじゃないかと思った。


「あと何機ぃ!?」

『あと三機です』

「多いんだよぉ!」


 オペレーターは無視して指示を下す。


『五時の方向、狙え』

「分かったよ!」


 点滅する光。こちらのを狙って来る。

 偽原子搭載シャトル、重力を突破し宇宙へと飛び立ち新暦の住人になるべく月へと向かう夢の船。それをアポソルは狙っている。アーチャーはシャトルと並行しながら、迫るアポソルを撃つ。手にした偽原子崩壊砲を構えて。


「いいから、もう来るなよ!」


 アポソルが三機真っ直ぐ全員一直線になって攻めて来る。


「こいつら!? 先頭を盾に!?」

                /

「切っ先は死すともー!」

『我ら本望は死なずー!』

『これが俺ら三連携ー!』

                /

「狂ってやがる! 崩壊砲の前じゃ無意味だ! 全部ぶち抜いてやる!」


 有言実行、アポソルを一機を墜とすオウジのアーチャー。しかし。


「散開したぁ!?」


 後ろの二機が先頭一機の爆散と同時……いやその少し前に分かれた。そのまま一気にシャトルに迫る。


「マズい! 二機!」

『アーチャーを近接戦闘モードへ』

「どこがアーチャーだクソッタレ!」


 レバーを引くオウジ、変形するアーチャー。銃をしまい、手のひらサイズ(巨人から見て)の棒を取り出す。

 そこから光が放たれる。偽原子崩壊剣。崩壊する偽原子を放出し続ける剣となる。

 敵のアポソルも崩壊剣を取り出す。近接戦闘。オウジの苦手とするところだった。

 しかし、それは単にオウジが苦手というだけであって。


「まずは、一機!」


 シャトルを背にして崩壊剣と剣が混じり合う。鍔迫り合いのような状態。

 しかし、まだ空いてる手があった。もう一本、崩壊剣を取り出すアーチャー。アポソルのがら空きになった胴体を捉える。アポソルは身をよじって躱そうと試みるも。


「遅いんだよ! 判断が!」


 真っ二つであった。切り裂かれたアポソルが落ちていく。光輝き崩壊していく。偽原子を搭載した物が破損するとそうなる。


「エレレレ……あと一機ぃ!」

               /

「散っていった仲間のためにもシャトルだけは――」

               /

「あとお前だけだ! お前もここで――」

               ×

「「墜とす!!」」


 崩壊剣がぶつかり合う。全てを否定する光が舞い散る。舞い踊る。そこから二刀流と一太刀の剣戟が始まった。見事にオウジの二刀流をいなす敵機。アポソルもけして近接戦闘特化ではない。ここまで取っておいたとっておきのパイロットという訳だ。


「少しはやるようだがぁ!」

               /

「おのれ! 邪魔をするなぁ!」


 互いの剣技がぶつかり合う。二刀流のオウジは剣をやたらめったら振り回す。一方、最後のアポソルはその全てをいなす。一歩間違えれば死に至る極限状態。互いの緊張は頂点に達していた。

 オウジのアーチャーが突如、上下反転する。偽原子を駆使すればこの空中にて巨躯でもそれは可能だ。

 足から生える崩壊剣。一足一本、計二本、いや手持ちも含め計四本。上下が反転した事によりがら空きの脚を狙えるようになったアーチャー。

 アポソルも応じようとするが――


「だから、遅いんだよ! 何もかも!」


 アポソルの両足を切り落とすアーチャー。アポソルは崩壊剣で持ってアーチャーの胴体を狙うが。両足を交差させて防御するアーチャー。アポソルのパイロットは驚愕する。


「この足芸野郎!」

             /

「もういい! 墜ちろォ!」


 再びの上下反転、しかしさっきと違うのはアーチャーの崩壊剣がアポソルに突き刺さっているという事だ。両足で防御していたアポソルの崩壊剣を軽く弾くと、そのまま一回転してアポソルの胴体を丸く切り裂いた。光輝き崩壊していくアポソル。それを見て吐くオウジ。


「はぁはぁ……これでも俺が落ちこぼれだって言うのかよ!」


 ダンッ! っとコックピットの壁を叩いた。そこは凹んでおり、何回も同じように叩いたであろう事が伺える。精密機器だというのに扱いが雑だ。

 それはまるで自分がいつ死んでもいいかのように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る