お茶でもいかが

 ウタカタンの者ならみんな知っている。誰もがいつかはどこかへかえるのだと。誰も知らない、どこかへ。


 その旅立ちの始まりは、この『たそがれ川』なのだ。

 リリーが客のリストノートを開くと、じんわりヨナじいさんの名前が浮かんできた。


「今日はあなたの貸切ね」


 そう言うとヨナじいさんを暖炉の前の安楽椅子に案内した。


「いらっしゃい、ヨナじいさん。ここで薪が爆ぜる音を聴いていてちょうだい。川守たちが送り出す支度が調うまでね」


 ヨナじいさんがにっこり頷く。


「わかっておるわい。どうしてわかっているかはわからないがの」


「じゃあ、時がくるまで私とお茶でもいかが」


「それもよいが、できれば酒の相手が欲しいわい」


「ぶどう酒なら喜んで」


「結構、結構、酒なら結構」


 酒好きのヨナじいさんはけらけら笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る