頑固な幼馴染は突然やって来て帰ろうとしない

月之影心

頑固な幼馴染は突然やって来て帰ろうとしない

「お邪魔しま~す!」


「来るならメールくらい入れろよ。」


「いいじゃん別に。」




 俺は加西泰正かさいたいせい

 25歳♂。

 特に何の変哲も無い、中小企業で働く普通のサラリーマン。

 社会人になってすぐに家を出て一人暮らしをしている。


 俺の部屋に突然やって来たのは明石美鈴あかしみすず

 実家の向かいの家に住む幼馴染で、幼稚園から高校まではほぼ毎日のように顔を合わせていて、仲良くしていた。


 お互い別々の大学へ行ってからは以前程は顔を合わせなくなったが、それでも不定期に外で会って食事をしたり買い物に付き合う程度の事はあった。


 就職してからは更に会う頻度が下がり、極稀にメールや電話でやり取りするくらいになっていたのだが、今日は何の前触れも無く突然俺の部屋にやってきた。




「へぇ~思ったより何も無いんだね。」


「うるせぇ。片付いてるって言え。」


「男の人の部屋ってもっとごちゃっとしてるイメージだったよ。」


「実家の俺の部屋見た事あるだろ。」


「あ~確かに何も無かったね。」


「だから片付いてるって言え。って言うか何しに来たんだよ?」




 部屋の中をうろつきながら何処かの監視員かの如くチェックをしていた美鈴が体をくるっと回して俺の方を向いた。




「何しに……って……泰正に会いに来たんだよ。」


「そうか。じゃあもう用事は済んだな。おやすみ。」


「ちょっ!?何で追い出そうとするかな?」


「だって俺は美鈴に用事無いもん。」


「酷いっ!大事な可愛い幼馴染と久し振りに会えたんだから積もる話もあるでしょうに?」




 美鈴は眉を上げて口を尖らせて不満そうな顔で俺を見てきた。

 小学生くらいの頃から変わって無いんじゃないだろうかと思うくらいに童顔のくせに、出る所は出てるし引っ込む所は引っ込んでるしで、『女』として見る事が出来れば結構いいんじゃないだろうか……とは思うが、残念ながら今更そんな風に見られなくなってる『幼馴染』というポジションよ。




「あぁはいはい。大事な可愛い幼馴染だけど別に積もるような話も無いからさっさと話しようぜ。」


「うんっ!」


「で、話が終わったらさっさと帰れよ。」


「ええっ!?」


「当たり前だろ。てか何時だと思ってんだ。」




 美鈴がきょろきょろと部屋の中を見渡し、壁に掛かった時計で首の動きが止まった。




「8時だヨ!」


「全いn……なんて言うと思ったか。今時の若者は知らんだろ。」


「ワタシワカモノダカラワカラナイ」


「てめぇ……」




 美鈴はトタトタとキッチンの方へ行くと、何かを探すように冷蔵庫や戸棚を開け閉めしだした。




「何やってんだ?」


「え?泰正お腹空いてない?何か作ってあげるよ。」


「いや、もう晩飯は食った。」


「マジで?」


「うん。ファミレスの割引券が今日までだったから使ってきた。」


「私は?」


「は?」


「私まだ晩御飯食べて無いんだけど。」


「知らんがな。」


「えぇっ!?お腹空いたっ!」


「外で食って来い。そしてそのまま帰れ。」


「酷い!何でそんなに私と一緒に居たがらないかな?」


「仕事で疲れてんだ。明日も仕事なんだから早く寝たいんだよ。」


「まぁそう言わずに。」




 美鈴は棚の奥に仕舞ってあったカップラーメンを見付けると、引っ張り出してきて俺が止める間も無く包装のビニールを『ばりっ』と破いた。




「何で勝手に人の食糧を喰らおうとしてるかな。」


「いやぁ……目の前にあったからつい……」


「目の前じゃないよな?さっき戸棚の奥に手を突っ込んで引っ張り出して来たよな?」




 美鈴が電気ケトルに水を入れて、『これ私が持ってるやつの色違いだ』などと言いながらスイッチを入れて俺の方へ振り返った。




「固い事言わないの。私と泰正の間じゃない。」


「幼馴染ってだけじゃねぇか。彼女でもしないような事を遠慮なくする間柄なんか認めてないぞ。」




 美鈴の動きがぴたっと止まる。




「かっ……彼女っ!?……泰正……彼女居るの?」


「居たらいけないか?」


「え……ほ、ホントに……?」




 先程までの勢いは何処へやら、美鈴が挙動不審になる。

 俺に彼女が居たら何だと言うのだ。

 別に美鈴には関係の無い事だろうに。


 まぁ、居ないんだけど。


 『カコンッ』と電気ケトルがお湯が沸いた事を教えると、よたよたと体を揺らす美鈴がカップラーメンにお湯を注いだ。




「それでも食うのかよ。」


「だって開けちゃってるから食べないと勿体無いでしょ。」


「彼女がどうのこうのって話は何処行ったんだ。」


「それはそれ、空腹とは別の話だよ。」


「はぁ……もう好きにしろ。」


「所有者の許可が下りましたぁ!」


「で、食ったら帰れよ。」


「またっ!?」




 お湯を注いでぴったり3分。

 美鈴はカップラーメンの蓋を剥がすと、流し台の引き出しから弁当屋で貰って使わずに置いてあった割り箸を取り出して、『熱くないのか?』と思う程の勢いで食べ始め、あっという間に平らげた。




「ご馳走様!1時間くらいは持ちそう!」


「それは良かったな。で、何の話がしたいんだ?」


「お!やっと私とじっくりたっぷり話をする気になったんだね?」


「手短に要点だけ話してさっさと帰ってくれればいいんだ。」


「あ……」




 美鈴の表情が一瞬暗くなる。




「ん?どうした?」


「そ、それはそうよね……か、彼女さんに悪いし……」




 美鈴の中ではさっきの一言だけで俺に彼女が居る事になってるようだが、あまりこういう嘘と言うか見栄は張りたくないな。




「彼女なんか居ないぞ。」


「へ?でもさっき……」


「居るなんて一言も言ってない。」


「そ、そう……そうかぁ……な、なぁんだ!おお驚かさないでよぉ!まったくもぉ~泰正は悪戯っ子だなぁ!あははは!」




 漫画みたいな動揺の仕方だな。




「それで?」


「それで?」


「美鈴が話をしたいって言ったんだから何か話題があるんだろ?」


「いや。これと言っては無いけど。」


「帰れよ。」




 何だかここから話が進まない。

 ひょっとして……




「なぁ美鈴。」


「なぁに?」


「ひょっとして夜通し語り明かそうなんて事考えて無いよな?」


「ぎくっ」


「口で言うなよ。」


「だって、こういうの憧れてたんだよ。」


「こういうの?」


「うん。ほらうちの親って妙に厳しかったでしょ?外泊なんて泰正の家くらいしか許して貰えなかったし。」




 寧ろ、俺の家になら泊っても良いという美鈴の両親が何を考えているのかが分からなかったのだが。

 美鈴の父親からも『美鈴を頼むよ』とか言われて、俺にその気も無いのにあの手この手で美鈴とくっつけようとする魂胆丸見えだったから苦手だったんだよなぁ。

 だって俺は美鈴の事を何とも思っていない『ただの幼馴染』としか思っていなかったし、今もそれは変わっていないのだから。




「だから一人暮らしを始めたら誰か他の人の家に泊まりに行きたいなぁと思っててね。」


「だったら会社の仲のいい人とか普通に付き合いのある友達とか他に泊まらせてくれる人居るだろ。てか一人暮らしして何年も経ってるのに今更かよ。」


「そりゃ言えば居るだろうけど、会社の人とは仕事以外で会いたくないんだよね。何かずっと仕事してる気になっちゃうでしょ?友達はみんな彼氏居てあんまり相手して貰えないんだよね。」




 まぁ、休日に会社の人間と会うなんて、例え同じ趣味だとしても御免被りたいのは同意する。




「だからって俺の部屋に来たらそれこそ子供の時と変わらんじゃないか。」


「実家と一人暮らしの部屋はまた別だよ。」


「別でも何でもいいから。俺は仕事で疲れてんだ。既に眠たいんだよ。」


「疲れてる時は寝るのが一番だよね。あ、何なら膝枕でもしてあげようか?」


「いらんから帰れ。そもそもいくら幼馴染だからって男の部屋に泊まりに来るって何考えてんだ。何かあったらどうするんだよ。」




 美鈴がニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んで来る。




「何かってなぁに?はは~ん……私が寝てる間にこのナイスバディをじっくりたっぷり堪能しようと思ったんだね?泰正も男の子だねぇ。」




 などといやらしそうな顔でのたまった。

 俺は大きく溜息を吐いて肩を落とした。

 確かに美鈴はナイスバディかもしれないが、さすがに思春期の高校生じゃあるまいし、欲情に任せて彼女でも無い女を抱こうとは思わない……はず。




「はぁ……もういい。俺は風呂入って寝る。」


「ええ~お話しようようぉ~。」


「疲れてるって言ってんだろ。それとも何か?俺に襲われたいと思って来たとか言うんじゃないだろうな?だったら諦めろ。俺はお前を幼馴染以上には見てない。」


「わ、私だって泰正は幼馴染としか見てないよ!泰正に襲われたいだなんて思うわけないじゃない!大体、泰正にそんな度胸あるわけ無いって分かってるから泊まりに来てるんだよ!」


「大きなお世話だ。どさくさに紛れてディスりやがって。」




 付き合ってられん。

 俺は着替えを持つと、背後から『いってらっしゃぁい』という明るい美鈴の声を無視して風呂に向かった。








「予想はしていたが……」




 少し熱めのシャワーを浴びて出てくると、美鈴は俺のベッドですぅすぅと寝息を立てて眠っていた。


(寝顔なんかホント子供の頃と変わってないな……)


 子供の頃、美鈴がうちに泊まりに来ると大抵は美鈴が先に寝てしまい、俺はその寝顔を暫く眺めるのが定番だった。

 もう十分大人だと言うのに、寝顔のあどけなさは見慣れた幼馴染というポイントを差し引いても可愛らしく思える。

 俺は少しだけ美鈴に顔を近付けて、久々にその寝顔をじっと見ていた。


 と、美鈴がゆっくり目を開けて俺の方を見た。




「あ……泰正だ……おかえり……」




 寝惚け眼のまま美鈴が言うと同時に、両腕を俺の首に回して引き寄せた。




「ぅおっ!?おい!」


「んぅ……」




 美鈴に抱き付かれながら、そのままベッドへと引き摺り込まれた。

 美鈴を潰さないようにと両腕を広げて美鈴の体を避けて踏ん張ってみたが、思った以上に力が入らず、美鈴の上にどさっと乗り掛かってしまう。




「お、おぃ……み、美鈴……寝惚けるな……」


「このまま……少しでいいから……」


「え……」




 口調こそのんびりまったりの寝起き直後の感じだが、腕から伝わる力の入り方は明らかに寝惚けてはいない。




「み……美す……ず……?」


「ごめんね……」


「え?な、何が……?」




 美鈴が俺の首に回した腕にきゅっと力を込めた。




「……泰正の事……好きになっちゃって……ごめんね……」


「え?」




 美鈴が俺の事を好きになった?

 何だ突然?




「ど、どうしたんだよいきなり……」




 美鈴は俺の首にしがみついたまま、顔を俺の首筋に押し付けるようにして、ぽつぽつと話し続けた。




「私ね……ずっと……小さい頃からずっと泰正の事が好きだった……いつも私の傍に居てくれて……いつも助けてくれて……」




 小さい頃からいつも美鈴は俺の傍に居た。

 困った事があると半泣きになりながらすぐに俺を頼って来た。

 助けたと言っても大した事では無かったのだろう、殆ど覚えていないのだが。




「けど……泰正は私を何とも思っていないって分かってたから……私に好きだって言われても迷惑じゃないかと思って……ずっと好きな事は言わないで居たの……」




 確かに、美鈴が俺に好意を寄せているくらいの事は気付いていた。

 だが、俺は美鈴を仲の良い幼馴染以上に見る事は無かったし、ましてや異性として好きか嫌いかなど考えた事も無かった。




「就職して泰正と会う時間が無くなってきて……会えない日が続いて……このまま会えなくなるんじゃないかって思って……どんどん不安になっちゃって……」




 そう言えば、美鈴は昔から頭に浮かんだネガティブな事を勝手に膨らませて勝手に不安になって勝手に落ち込む事があったな。




「会えなくなるのは嫌だけど……もし会えなくなるならその前に……ちゃんと好きだって伝えておかなきゃ……と思って……」


「それで連絡も無しに突然やって来たのか。」


「うん……」




 25にもなってまだそんな乙女な所があるんだなと、俺は少し可笑しくなってしまってつい吹き出してしまった。




「わ、笑わないでよ……こっちは真剣なんだから……」


「いやいや。20年もずっと俺の事が好きだったなんて聞いたら笑うだろ。」


「もぉ……デリカシー無いんだから……」


「しかも何?『会えなくなる前に』っていつから会えなくなるんだ?海外にでも引っ越すのか?俺にも心の準備ってのがあるから教えてくれ。」


「え?それって……」


「平穏な日常を壊される心配が無くなる日が来るって事だろ?人間はゴールが見えたら頑張れるものだからな。」


「馬鹿ぁっ!」




 美鈴が俺の首に巻き付けた腕に渾身の力を込めて締め上げてくる。


 が、所詮は何も鍛えていない女の力。

 多少苦しいと感じる程度だ。

 寧ろ強く抱き付かれる事で美鈴の柔らかい二つの膨らみが胸に押し付けられて適度に心地良いのだが。




「そんなに私の事が嫌い?私なんか居なくても本当に何とも思わない?こんなに想ってるのに何一つ受け止めてくれないの?」




 さっきよりも声が真剣になってきていた。

 これ以上追い込むのも得策では無いと判断した。




「で、結局美鈴はどうしたいわけ?」


「どう……って……」


「俺に好きだって伝えてそれで満足しておしまいか?」




 美鈴が俺の首に回した腕の力を抜いて顔を動かした。

 俺も美鈴の腕の力が抜けるのに合わせて美鈴から体を浮かせて顔を見る。




「言うだけで……満足なんか出来るわけないでしょ……」


「だからどうしたいのか言ってみろよ。」


「た、泰正の……彼女に……なりたい……」


「何で?」


「ななな何でって……泰正が好きだからに決まってるでしょ!?」


「続けて言ってみ。」


「え?……っと……私は泰正が好きなので泰正の彼女になりた……い?」


「何で疑問符なんだよ。はいダメー。」


「えぇっ?」


「ちゃんと言えないならこれ以上の進展は無しだ。」


「うぇっ!?も、もう一度!やり直し!」


「ダメー。」


「うぅ……」




 心底悔しそうな顔で俺を睨んでいるが、言い方を間違えたのは美鈴なんだから知った事ではない。

 が、そろそろフォロー入れておかないと余計に面倒な事になりそうだ。




「まぁ、そんなに落ち込むなって。別に俺は美鈴が嫌いなわけじゃない。嫌いなら途中で連絡絶つよ。今まで通り、仲のいい幼馴染で居ればいいんだ。」


「それが不安だから言ったんじゃない……」


「嫌ってないんだから問題無いだろ。」


「だって……」


「いいじゃん。それよりこの体勢キツいんだが。」




 俺は美鈴と話をしている間、ずっと両腕に力を入れたまま体を支えていてそろそろ限界だったのだが、そこへ再び美鈴が腕に力を入れて俺に抱き付いてきたものだから、また美鈴の上に圧し掛かってしまった。




「おぃ!何やってんだ!キツいって言ってんだろ。」


「もういいもん!これだけ泰正の事が好きって言ってんのに何とも思って貰えないなら好きにしてやる!」


「分かったから!ちゃんと聞いてやるから落ち着け!」


「え?じゃあ私を彼女にしてくれるの?」


「それは無い。」


「えぇっ!?今そういう流れだったんじゃないの!?」


「どこからの流れだよ。いいから一旦離れろ。」


「やだ。」




 正直、相手は力の無い美鈴なのだから振り解こうと思えば簡単に出来るのだが、いくら気が無いとは言え相手は立派な大人の女で、さらに美鈴は、言い方は下品だが『抱き心地の良い体』をしているものだから……という言い訳をしてみる。




 ……全然言い訳になっていないか。




「大体さ。俺と付き合って何があるんだ?今の関係と何が変わるんだ?」


「何って……私の不安が無くなる。」


「だから嫌いになんかならないから大丈夫だって言ってるだろ。」


「それだけじゃないよ!」


「何があるんだ?」


「だって、泰正に他に彼女が出来たらこういう関係じゃ居られないでしょ?」


「ただの独占欲の押し売りかよ。」


「い、いけない!?自分の好きな人が他の人に取られたくないって普通思うでしょ?」


「開き直るんじゃない。何で俺が美鈴の独占欲に付き合わないといけないんだ?」


「そっ……それは……」




 結局そういう事なのだ。

 誰彼を好きになった……と言うのは普通の感情だから構わない。

 けど感情というのは個人の中で生まれるものであって、他人に強制力を与えるような感情は人によっては迷惑にしかならない。




「一つ訊くけど、もしも俺が美鈴の事が好きで、他の男と付き合って欲しくないから俺と付き合えとか言われて、素直に付き合えるか?」


「うん。それは嬉しい。」


「あっそ。」




 そりゃそうか。

 こいつは俺の事が好きなんだったな。

 例え話だとしても今のお花畑恋愛脳になってる時に言ったら当然そうなるわな。

 ここは変化球を投げるべきじゃなかった。

 失敗。




「とにかく。自分の欲望だけ満たそうとして俺の意思を無視するんじゃない。」


「無視なんかしてないよ。だって泰正はこれからも私と仲のいい幼馴染で居られればいいと思ってるんでしょ?」


「あぁそうだよ。」


「私と付き合っても仲のいい幼馴染は続くじゃない。」


「ん?」


「幼馴染の関係に恋人の関係が乗っかって来るんだよ。もっと仲良くなれる気がするよ?」


「いや、それだと幼馴染の上に美鈴の片想いが乗っかるだけのような気がするんだが?」


「 い い の 」




 美鈴は俺の首に回した腕に力を入れて俺の顔を引き寄せ、俺の頬に唇を押し付けた。




「何やってんだよ。」


「おまじない。」


「何のだ?」


「泥棒猫が寄ってこなくなる。」


「マーキングじゃねぇか。それよりそろそろマジで離れろ。」


「やだ。」




 結局『離れろ』『やだ』を延々繰り返しながら、気が付けば日も変わっていた。




**********




「終電終わってんじゃないの?」


「うん。もう帰れないー。」


「なんつー棒読み……確信犯かよ。」


「最初からそのつもりだったから。」


「ったく……お前が頑固一徹だった事、今になって思い出したわ。」


「ふふっ……」


「今更追い返すわけにもいかないから今日は泊まってっていいよ。」


「今日だけ?」


「俺の気が変わるまでならご自由に。」


「ふふっ……もっと私の事が好きになるのも『気が変わる』うちに入るの?」


「そうだな。その時はその時に考えるか。」


「うん。」








 幼い頃から仲良く一緒に過ごしてきた幼馴染。


 異性として見ていなかったのではなく、異性として見る事で『今まで通り』の仲のいい幼馴染の関係が壊れるのを恐れて異性として見ようとしていなかっただけだった。


 恐れなくても良いのだと教えてくれた幼馴染は、俺の腕の中で気持ち良さそうに寝息を立てていた。

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