超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド外伝
音村真
外伝エピソード 皇 将角
オプスキュリテの夜明けⅠ
「いつから俺は、こんなふうになってしまったんだろう──」
道を踏み外してしまった後悔。
その先にある絶望。
もはや、あと戻りなどできない。
やり直すことも────
できない。
将角は、河川敷が見える土手の斜面に寝転んでいる。
ゆっくり流れる雲を眺めながら煙草をふかす。
じきに何かを思い出して、両目を隠すように左手で顔を覆う将角。
そして、思わず将角の口から言葉が漏れた。
「本当は、俺だって────」
I know the regrets that didn't work...
◇ ◆ ◇
将角は昔を思いだす。
小学生の頃──
「おい、将角! クロスレイドやろうぜ!」
「将角! 今日はあたしが勝つからね!」
「はは! おまえら、俺に勝てると思ってんのかよ!」
将角は思う。
このころは3人で遊んでいて本当に楽しかった、と。
小学4年生のとき、将角はひとりの小さな少年を助けたことがあった。
正義のヒーローに憧れていた幼少時代。
今の将角にとっては過去の勲章でしかない。
だが今の将角にとって、ゆいいつの誇りでもある大切な思い出だ。
「そういえば、あいつ。あのとき俺の試合……観に来てくれたんだろうか?」
将角は思う。
もし、あの時の少年が、将角の試合を観て勇気を持ってくれたなら──自分がこの世に存在した意味はあったのではないか、と。
中学生──
将角が、いちばん荒れていた時代。
小学生から中学生に上がるくらいのころ、将角は姉である飛鳥と親友だった金太郎が、お互いに好意を抱いていることを知ってしまった。
「俺は邪魔者だ──」
将角が、ふたりから距離を置くようになった本当の理由。
ふたりが気を使わないように、わざと攻撃的な態度で接してふたりを困らせた。
「これでもう俺は必要ない。周りには誰もいない」
訪れる孤独。
寂しさを埋めるために、不良と付き合いはじめた将角。
心は少しずつ濁り、すり減り、荒んでいく。
気づいたときには、もう手遅れだった。
そして高校生──
将角は、もはや生きている意味すらわからなくなっていた。
高校に入学して間もないころ、将角は幼少時代を思い返して、気まぐれでクラスメートをイジメから救ったことがあった。
すでに自分が正義のヒーローとは程遠いところにいることくらい、将角は自分で理解していた。それでも、そうしたかったのだ。
感謝されたかったわけではない。
恩を売りたかったわけでもない。
ただ寄り添える何かを、探していただけなのだ。
だが、その先で将角を待ち受けていたのは、救ったクラスメートによる裏切り行為だった。
自分をイジメていた不良たちに脅されて、将角を罠に嵌めたのだ。
将角は倉庫に連れて来られ、不良たちの気が済むまでサンドバックにされた。
不良たちから解放された将角は、その足で河川敷の見える土手まで這っていき、そこの斜面に寝転がって煙草に火をつける。
そして将角は、過去を思い返していた。
◇ ◆ ◇
そう──
将角は、つい先ほどまで不良たちにサンドバックにされていたのだ。
思い出に浸るのを辞めても、相変わらず将角は雲を眺め、考えている。
「俺の人生は、これから先もずっとこんなふうなんだろうか──?」
するとその時、背後から何者かが将角に声をかけてきた。
「あれ? ひょっとして将角くんじゃない?」
将角がうしろを振り返ると、そこには同じ制服の学生がひとり立っていた。
長い黒髪をサラサラとなびかせた、小柄な女の子のような少年。
この少年こそ、のちに将角のパートナーとなる人物──
(コイツ。どこかで見た覚えが────)
将角は警戒しながら、威嚇するように少年に問う。
「なんだ……てめぇ?」
「そっか。ごめんね。将角くんはボクのこと知らないんだね。ボクは桂。早乙女……桂だよ。キミと同じ高校の1年3組──」
「違うクラスのヤツが、この俺にいったい何の用だ?」
◇ ◆ ◇
将角の前に突然現れた少年、早乙女桂。
しばらく噛みあわない不毛な口論が続いたあと、桂は将角に突拍子もないお願いをした。
「ねえ、将角くん。ボクとクロスレイドで勝負してよ」
「ク、クロス……レイド、だと……?」
「6年前のキミは、もっと自信に満ちあふれていたはずだよ。何があったのか知らないけど──ボクが、かならずキミをこっち側に連れもどす!」
桂のまっすぐな瞳が、将角を動揺させた。
将角の目には桂の姿が、子供のころに想い描いていた自分の理想と重なって見えていたのだ。
将角は思う。
子供のころの自分だって、こうなりたいって願っていたんじゃないのか──と。
理想と現実は違う。
だが──
信念が現実を打ちくだき、理想を貫きとおすための刃となりえるのか。
将角は桂の言葉の先にある未来を、見てみたかったのかもしれない。
「いいだろう……! おまえが口先だけじゃないか──証明してみせろ!」
「だったら、この近くに大きなレイドスポットがあるから、そこに行こうよ」
◇ ◆ ◇
将角と桂は、最寄りのレイドスポットで対峙している。
すでにふたりの対決は、終盤に差しかかっていた。
現時点で優勢なのは将角のほう。
将角は、桂がキャリングケースで大量に持ち歩いていた、予備のユニットセットを使用している。
桂から「自分のセットを持ってきてもいいよ」と言われたが、将角はそうしなかった。
即席のセットで勝つ自信があったからだ。
将角は自分のターンを終えたあと、少しうれしそうな表情を浮かべて、桂に称賛の言葉を贈った。
「なかなか、やるじゃねぇか。少し甘く見ていたぜ」
「まだ、これからだよ。将角くんだって、ずいぶんブランクがあったみたいだけど、思った以上に勘が鈍ってなかったんだね」
「はん! 言ってくれるじゃねぇか! そこまで言うからには、まだ何か隠してるんだろ?」
この将角の挑発を受けて、桂が力強く答える。
「……そうだね。だったら見せてあげようか。ボクのドラゴンが進化した本当の姿──!」
「はっ! 面白れぇ。見せてみろよ──おまえのドラゴン!」
「後悔しないでよね! それじゃいくよ! ボクのターン──」
桂の行動に迷いはない。
まるで予定していたかのような素早い判断力でユニットを展開していく桂。
「ボクはフィールド上の自軍モンスター1体を選択して〈ベビー・カーバンクル〉のスキルを発動! 選択したモンスターを、右か左どちらかのマスへ1マス移動させることができる! ボクは〈カレント・ドラゴン〉を選択して1マス右へ移動させる!」
先ほどまで〈カレント・ドラゴン〉の行動可能範囲の先を狙って、将角のモンスターが待ちかまえていたが、〈カレント・ドラゴン〉が1マス右へ移動したことによって、将角の防衛線が完全にその機能を失った。
将角が警戒心をあらわにする。
「──来るのか⁉」
「ボクは通常の行動権を使用して〈カレント・ドラゴン〉を右側の2マス前まで移動させる! 入ったよ──将角くん!」
桂は〈カレント・ドラゴン〉のユニットを手にとって、進化詠唱を口にした。
「
すると〈カレント・ドラゴン〉は大きく咆哮したあと、その姿を〈カレントドラゴン・シュトローム〉へと変貌させたのだ。
現れたのは赤に緑が入り混じった、禍々しい色をしたドラゴンの姿。
進化前よりも、はるかに凶悪なオーラを放っている。
まるで周囲の空気が〈カレントドラゴン・シュトローム〉を中心に渦巻いているようだ。
「まじかよ⁉ こ、これが……こいつのドラゴン! 思った以上にやべぇのが出てきたぜ……!」
To be continued...
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