第27話
クリフォード率いる第二特務戦隊はソーン星系行き
現在、ゲオルギー・リヴォフ少将率いる帝国戦隊は第二特務戦隊から約百五十光秒の位置にあり、最大加速度での減速を行いながら、真っ直ぐに第二特務戦隊に向かっていた。
この時点でクリフォードはリヴォフに対する不信感が更に強まっていた。
通商破壊艦の残骸を無視した航路で、自分たちの方に向かってきたためだ。
(武装勢力との戦闘について事情聴取すると言うなら、ソーン星系JPで待ち伏せしていた四隻のゾンファの武装商船の残骸に調査隊を派遣しなければおかしい……外交使節団をスループに移したのは正解のようだ……)
クリフォードはリヴォフの行動に疑問を持ち、予め二隻のスループ艦に外交使節団約二十名を移動させていた。
その理由は旗艦キャヴァンディッシュ132の
また、二隻のスループ艦は戦隊からやや離れた位置にあり、いつでも超空間に逃げ込めるように準備は完了している。
移乗させる際に外交使節団の特使代理、グラエム・グリースバック伯爵が何か言ってくるとクリフォードは警戒したが、自らの失態のため、茫然自失の状態であり、素直に艦を移っていた。
二分半のタイムラグがあるが、クリフォードはリヴォフに向けて通信を行った。
「先ほどの戦闘で負傷者が発生した。ダジボーグ星系にて治療を受けさせたいため、負傷者を乗せたスループ艦二隻のジャンプの許可をいただきたい」
これはクリフォードが考えた作戦だった。
(リヴォフ少将は指揮官から直接事情を聴きたいと言っていた。これを拒否するなら、我々全員をこの星系に留めておきたいということだ。幸い帝国軍に偵察艦は同行していない。この距離ならスループ艦がジャンプインしたことにして、ステルス機能を全開にすれば、敵に見つからずにミーロスチ星系JPに向かえる……)
小型の偵察艦であるリーフ級スループは敵宙域への潜入に使われるほど高いステルス性能を誇る。そのスループ艦二隻をジャンプしたように見せかけるため、
そうすれば、偵察艦がいない帝国軍は探知できず、スループ艦を見失う。その隙にソーン星系JPから密かに離れれば、安全に移動が可能となる。
見せかけではなく、本当にソーン星系に戻すことも検討したが、ダジボーグ艦隊全体が敵に回っている可能性があるため、クリフォードは当初の計画通り、ストリボーグ星系に向かわせることにした。
四分半後、リヴォフ戦隊から返信が入った。
『貴官らの行動に重大な疑義が生じている。すべての将兵から事情を聴く可能性があるため、ソーン星系への移動を禁じる。本命令に従わない場合は敵対行動を見なし、攻撃も辞さない』
クリフォードは直ちにそれに反論する。
「貴官に我々への命令権限はない。これまでは勧告に従ったが、貴官の行動には疑問点が多く、更に納得できる説明がない。小官は負傷者の生命と当戦隊の安全のため、最善の行動を採ることを宣言する」
その通信後、クリフォードは戦隊各艦に命令を発した。
「オークリーフとプラムリーフは事前の作戦通り、ステルス機能を全開にしてミーロスチ星系JPに向かえ! 他の艦は帝国リヴォフ戦隊からの攻撃に備え、加速を開始する」
二隻のスループ艦は
オークリーフ221のマーカス・ドイル少佐とプラムリーフ67のライアン・エルウッド少佐は、いずれもベテランのスループ艦乗りであり、絶妙の演技で帝国軍を欺く。
その結果、百光秒以上離れている帝国艦では、二隻が超空間に入ったように見えていた。
クリフォードは旗艦を先頭に、軽巡航艦グラスゴー451、ゼラス552、ゼファー328、ジニス745、ゾディアック43の四隻のZ級駆逐艦が続く。
但し、主砲を損傷したゾディアックの修理は間に合わず、他にも多くの艦で機能一部が回復しておらず、万全とは言い難い。
特に対宙レーザーは軽巡航艦に十六基、駆逐艦に十四基の計八十八基があるが、約二割に当たる十八基が使用不能であり、ステルスミサイルによる攻撃に対し、不安が残る。
そのため、戦隊参謀のクリスティーナ・オハラ中佐から一隻当たり十基の対宙レーザーを持つスループ艦を残してはどうかと進言されていた。
「我々の任務は外交使節団を守ることだ。戦隊を守るために外交官を危険に晒すことは本末転倒といえる」
クリフォードはそう答え、考えを変えなかった。
加速開始後、リヴォフから警告の通信が入った。
『コリングウッド准将に告ぐ。貴官らには第三国の船舶への攻撃の疑いがある。直ちに加速を停止し、
それに対し、クリフォードは即座に反論する。
「銀河帝国航宙法は明確な敵対行為がない場合、当該宙域の主権を有する国家の承認を得た第三国の船舶に対して保護義務が生じる。また、明確な敵対行為とは当該宙域の船舶、施設、個人に対し、攻撃を加えるものであり、攻撃を受けた場合の反撃権を有していることは明確に記載されている。よって、貴官の主張は誤りである」
ここでいう銀河帝国航宙法は“第一帝政”、“第二帝政”と呼ばれる、オリオン腕に存在した“銀河帝国”で使われたものだ。
その内容自体はスヴァローグ帝国を始め、アルビオン王国やゾンファ共和国なども使い続けており、クリフォードも銀河帝国航宙法を熟知していた。
距離による冗長な通信の間にも、両戦隊は急速に距離を縮めていく。
(リヴォフ少将の主張は支離滅裂だ。どう考えても我々を排除しに掛かっている。しかし、帝国領内で帝国軍に攻撃を加えることは戦争のきっかけとなり得る行為だ。正当防衛とはいえ、ここで反撃してもよいのだろうか……)
クリフォードはリヴォフが本当に攻撃してきた際に反撃すべきか迷っていた。
停戦条約を結んでいるとはいえ、この宙域には自分たち第二特務戦隊とリヴォフの戦隊しか存在せず、この不利な状況で勝利をもぎ取ったとしても正当性を認められない可能性が高い。
また、リヴォフがスヴァローグ帝国の上層部の命令を受けていた場合、国際問題に発展する可能性が高く、その影響度合いを掴みかねていた。
(迷っている時ではないな。ここで指示に従ってリアクターを停止しても攻撃を受けないという保証はない。部下の生命を守るために腹を括らなければ……)
表情を引き締めた後、クリフォードは戦隊各艦に向けて決意を伝えるため、マイクを取った。
「標準時間一五四一をもって、スヴァローグ帝国軍ダジボーグ艦隊所属のリヴォフ戦隊を準敵性勢力と認定し、
各艦の艦長から了解の通信が送られてくる。
「なお、リヴォフ戦隊が敵対行動を採った場合は、即座に敵性勢力として対応する。それまでは不利であってもこちらからは手を出さない。各艦の指揮官はその旨を徹底せよ。以上」
その言葉を受け、旗艦の
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