第23話
クリフォード率いる第二特務戦隊はディン・クー大佐率いるゾンファ共和国の通商破壊艦二隻の猛攻撃を受けていた。
Z級駆逐艦ゼファー328の艦長、ファビアン・コリングウッド少佐は指揮を執りながらも、この状況を打開するための策がないか考えていた。
彼の指揮艦であるゼファーは二度の直撃を受け、対宙レーザーの一部と、Zマイナス方向すなわち下方への機動に使用するスラスターの一部が損傷している。しかし、戦闘力そのものは維持していた。
(敵の砲撃が激しすぎる。このままでは全滅しないだろうが、半数以上が沈められる。何としてでも兄さんのいるキャヴァンディッシュだけは守らなければ……だが、どうすれば……)
しかし、打開策が思いつかない。
その間にも攻撃が激しさを増し、彼の指揮艦も限界が近づいている。また、軽巡航艦グラスゴー451を始め、他のZ級駆逐艦も損傷が大きくなっていた。
そんな中、情報士が戸惑うような声で報告を上げてきた。
「オークリーフがキャヴァンディッシュの前方に移動しました。このままでは敵の砲撃を直接受けることになります」
「何!」とファビアンは言い、メインスクリーンに映るアイコンに視線を送る。
情報士の報告通り、それまで戦隊の後方にいたスループ艦オークリーフ221がキャヴァンディッシュと敵別動隊の間に入るように軌道を変えていた。
「盾になるつもりか! 意味がないぞ!」
戦術士が叫ぶように声を上げる。
スループ艦の防御スクリーンは駆逐艦の六割程度の能力しかなく、一方向に集中展開したとしても、アルビオンの軽巡航艦を超える通商破壊艦の主砲を受け切ることは難しい。
まして現状では〇・一
「オークリーフは艦首のみにスクリーンを展開している模様! 旗艦の自動回避に同調させています!」
「本当に盾になるつもりか、ドイル艦長は……」
ファビアンは思わずそう呟く。
オークリーフ221の艦長、マーカス・ドイル少佐は生粋のスループ艦乗りで、今回のような激しい戦闘に参加したことはほとんどなかった。
また、スループ艦の特性を最も知る人物であり、このような無謀な行動を取るとは思っていなかったのだ。
そして、すぐにその行動の結果がスクリーンに映し出される。
「オークリーフに敵主砲直撃!」
その言葉にファビアンは思わず目の前にある指揮官用コンソールに視線を向ける。
そこには艦首が損傷しているものの、未だに健在なオークリーフの情報が映し出されていた。
オークリーフはすぐに元の位置に下がっていく。
(なるほど。短時間なら進行方向に防御スクリーンを張らず、前方にのみ展開すれば、スループ艦でも一撃なら耐えられると教えてくれたのか。敵は急造の武装商船だ。主砲の発射間隔は短くない。その辺りも計算に入れているのだろう。流石はベテランのスループ艦乗りだ……)
ジャンプポイントでは星間物質の密度が低く、現在の速度であり、運悪くデブリのようなものが衝突しなければ、数分なら耐えられる。
そのことに気づいたファビアンは即座に命令を発した。
「オークリーフが手本を示してくれたぞ! 防御スクリーンを艦首に集中! 旗艦の前に移動せよ!」
その命令を受け、ゼファーは定められたポジションを離れ、旗艦の盾になるように前に出る。
その直後、キャヴァンディッシュから通信が入る。
『コリングウッド少佐! 元の位置に戻れ! これは命令だ!』
クリフォードが厳しい口調で命令する。
「我々の任務は外交使節団を守ることです。いかなる処分も受ける所存ですが、今は議論している時間がありません」
毅然とした態度で回答するが、その直後に大きな揺れがゼファーを襲った。
けたたましい警報音が鳴り響き、
「第一布袋丸の主砲直撃! 防御スクリーン過負荷状態です!」
戦術士の焦りを含んだ声に機関士の声が被る。
「
「了解」とファビアンは冷静に答えた後、鋭い口調で
「手動回避再開! 直ちに艦を元の位置に戻せ!」
その命令を発した後、ファビアンは艦の状況を確認するため、指揮官用コンソールに目を向ける。
(一撃ならゼファーの防御スクリーンでもなんとかなる。他の艦も続いてくれればいいのだが……)
そんなことを考えていると、情報士の声が聞こえてきた。
「ゾディアックが前に出ます!」
メインスクリーンには艦首が半ば溶けている駆逐艦、ゾディアック43の姿が映し出されていた。
「防御スクリーンの復旧急げ!」
ファビアンは機関士にそう命じると、
「
その命令に機関長の野太い声が答える。
「
ファビアンより十歳以上年長の機関長は敬語を忘れて答えていた。
「よろしく頼む」とファビアンは答えると、すぐにマイクを手放した。
ゾディアックが直撃を受けて後方に下がると、プラムリーフ67が旗艦との間に入る。
その間にゼファーの防御スクリーンが回復した。ファビアンは再び艦を前に出すように命じた。
■■■
ファビアンらの献身的な行動によって直撃は減ったとはいえ、軽巡航艦キャヴァンディッシュ132に攻撃が集中している状況に変化はなく、綱渡りに近い状況であった。
「右舷カロネード砲損傷!」
「右舷Cデッキ減圧確認! 隔離成功!」
「B
「Aデッキにて爆発確認! スラスター制御系損傷の模様!」
「防御スクリーンと
バートラムらの声が響く中、クリフォードはファビアンらの献身的な行為に感謝していた。
(ドイル少佐のお陰でキャヴァンディッシュは一息つけた。あのまま攻撃を受け続けていたら、この艦は大きな損傷を受けて行動不能に陥っていたはずだ。ファビアンもそうだが、みんなが我が身を犠牲にしてくれるとは思ってもみなかった……)
感謝の念を浮かべるが、すぐに次の行動について考え始める。
(キャヴァンディッシュもそうだが、ほとんどの艦が何らかの損傷を受けている。とりあえず、あと一分ほどで敵の射程から脱出できるが、どこに向かうべきか……)
彼が気にしていたのは向かう先のことだった。
ベクトル的には次の星系であるミーロスチ星系へのジャンプポイントに向かうことは可能だが、損傷を受けた状態で
慣性航行中に応急処置を行うことは可能だが、グラスゴーの
最終的に二十光秒ほどしか引き離すことができないため、下手な軌道変更を行うと、再び距離を詰められる可能性があり、のんびり補修を行える状況ではなかった。
「敵の射程から抜け出せました!」
副官であるヴァレンタイン・ホルボーン少佐の声が響く。
豪胆な彼にしては珍しく、声に安堵の響きがあった。
「全艦、右舷百八十度回頭! 上下角そのまま。二kGで加速開始!」
この時、第二特務戦隊は慣性航行を行いつつ、別動隊に艦首を向けていた。敵からの砲撃が止んだタイミングで、敵から離れる方向に向けて加速を開始したのだ。
「グラスゴーのラングフォード中佐より通信が入っております」
ホルボーンがクリフォードに報告する。
すぐに回線を繋ぐと、サミュエルの顔が映し出された。
『グラスゴーが
サミュエルは自分の艦が足を引っ張っていることから提案を行った。
「それは認められない」
クリフォードは即座にその提案を却下する。
『しかし……』とサミュエルが言いかけたところで、クリフォードはその言葉を遮った。
「敵は別動隊の二隻しか付いてこられない。ならば、スペクターミサイルを持つグラスゴーがいた方が対応しやすい」
クリフォードの言葉にサミュエルは僅かに考えた後、反論することなく、引き下がった。
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