第14話
時はモーガン艦長が殺害された時間に遡る。
アルビオン軍重巡航艦サフォーク05の副長のグリフィス・アリンガム少佐は
そして、軍医のマーガレット・ケアード軍医少佐の許可を貰い、リーヴィス少佐に面会していた。
「ジュディが体調不良とは……ゾンファの謀略か? それとも妊娠か?」
アリンガム副長が冗談交じりにそう言うと、リーヴィス少佐は青白い顔で首を振る。
「そんなことはないと言いたいところだが、自分でも毒を盛られたのでないかと思うくらい突然だったんだ。士官学校に入ってから十五年以上経つが、今まで一度も病気になっていないのが、私の唯一の自慢だったんだ。まして、何もない航宙中に艦の安全な食事で腹痛など……」
副長が少し心配そうに、「
「原因不明だそうだ。念のため、毒物の反応も調べてくれたそうだが、検出されなかった。アレルギー反応の一種だろうという話なんだが……定期健診で調べてあるはずなんだがな。先生の予想だと、複合的に起こったアレルギー反応に似た症状ではないかってことだ」
「複合的な?」
「Aという物質とBという物質があり、どちらに対しても反応は現れないが、Aを摂取した後にBを摂取すると、Bがトリガーとなって反応が現れる場合があるそうだ」
「それは災難だったな。まあ、大した任務でもないし、ゆっくり休めよ」
そう言って、部屋を出て行こうとしたとき、艦内に一斉放送が流れた。
『通信系故障対応訓練を開始する。PDAを含むすべての通信機器の使用が制限される。使用者は直ちに作業を中止し、訓練に備えよ。開始、五秒前、四、三……』
そして、その放送に被るようにもう一つの放送が流れていく。
『
「訓練だと! 聞いていないぞ! くそっ!」と叫んで、病室から走り出す。
(艦長が思いつきで始めたんだな。しかし、副長の俺に一言もないとは……これは一度、きっちりと話をつけなければならないな)
この時、アリンガム副長はモーガン艦長が気まぐれに訓練を始めたと思っていた。
しかし、自分の
(訓練をやるのはおかしなことじゃない。だが、二つの訓練を同時にやるのはあの艦長でもまずいと思うはずだ。そもそもここは戦闘宙域だぞ。そこで訓練とは……ジュディの体調不良といい、嫌な予感がする……)
「グリフィス・アリンガム少佐、CICへ入室する」
宙兵隊員はお手本のような敬礼で副長を迎い入れる。
アリンガムはCICの扉にIDを当て、生体認証装置を使おうとしたが、認証装置が作動しない。
二度、三度とやり直すが、IDの認証が拒否される。
(
やりきれない思いで艦内を確認することにした。
情報がないまま、三十分が過ぎた。
アリンガム副長は
不安げな乗組員に「すぐに終わる」と笑顔で説明しながら、艦を巡回していく。
巡回を終えた彼は仕方なく、
「グリフィスが聞いていないというのは問題だな。危険が少ない任務とはいえ、作戦行動中なんだ。せめて、副長には事前に了解をとっておくのが、常識ってもんだろう。まあ、あの艦長に常識を求めても仕方がないのかもしれんがな」
戦術士のネヴィル・オルセン少佐が吐き捨てるようにそう言うと、副戦術士のオードリー・ウィスラー大尉も大きく頷いていた。
「そうは言っても、未だに訓練の終了が宣言されん。これでは文句の言いようがない」
憮然とした表情でアリンガム副長が呟く。
「
オルセン少佐の問いにアリンガムが答える。
「グレタは格納デッキにいるはずだ。艦長に
副航法長のグレタ・イングリス大尉、副情報士レオン・トムリンソン大尉、宙兵隊隊長ダレン・ハート宙兵大尉、副隊長バリー・アーチャー宙兵中尉の居場所を説明していく。
ウィスラー大尉が「そうすると、ERCには誰も士官がいないんだね」と確認する。
「そうだな。まあ、この時間だから
副長の答えに情報士官のハリソン・エメット少尉が「しかし、それはまずいんじゃないですか?」と口にする。
「確かに艦隊運用規則違反になるな。ERCに士官が入れない状況は、規則では認められていない。少なくとも士官がERCにいる状況でなければ、こんな訓練はやってはいけないはずなんだ」
副長の言葉にオルセン少佐も頷く。
「今、CICで何かが起きるか、敵が現れるかしたら、完全に運用規則違反になる」
副長が「そうだな」と答えたとき、艦内に放送が流れ始めた。
『達する! 達する! モーガン艦長及びキンケイド少佐が死亡した。現在、本艦はコリングウッド中尉が指揮を執っている。達する! 達する! モーガン艦長……』
その放送に士官室の全員が立ち上がる。
「艦長が亡くなった? キンケイド少佐もだと……」
「何が起こっているんだ?」
そして、放送が一旦終わり、再び一斉放送が流れる。未だ、騒いでいる士官たちにアリンガム副長が「静かにしろ!」と一喝して黙らせる。
『達する! 達する! 現在継続中の通信系故障訓練及び内部破壊者対応訓練の解除の目途は立っていない。達する! 達する! 現在継続中の……』
士官たちは放送を聞くため、私語をやめていた。そして、再び放送が途切れ、別の放送が始まる。
『達する! 達する! 〇一〇〇、ハイフォンJPにてゾンファ艦隊を探知した。ゾンファ側の意図は不明。達する! 達する! 〇一〇〇……』
アリンガムはゾンファ艦隊と聞き、一連の騒動の裏にゾンファの影があるのではと考えた。
(このタイミングでゾンファ艦隊だと。ここ数ヶ月姿を見せなかった奴らが、このタイミングで現れたのは間違いなく、艦長の死と関係があるはずだ。だが、この状況でどうすれば……)
更に放送は続いていく。
『達する! 達する!
アリンガムは何をするつもりだと首を傾げる。
(警報試験だと? 何をするつもりだ、こんな時に……そうか! 各制御盤に人員がいるか確認しているんだな。よく考え付くな。さすがは噂の“
アリンガムは何もできない今の立場に忸怩たる思いを抱いていた。
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