第33話
ゾンファ軍クーロンベースの
しかし、オペレータは成すすべがなく絶望し、ほとんどの者がシートに座り込んで放心していた。
その中で司令のカオ・ルーリン准将は、まだ指示を求める少数の部下たちの声を無視し、ただ一人司令用コンソールの操作を続けている。
彼はクーロンベースの
彼はニヤニヤと笑いながら、司令用のコンソールをいじっているが、MCRのオペレータたちは既に彼のことを狂人として扱っており、気にするものはいなかった。
その五分後、突然、MCR内に
『最終警告。対消滅炉自爆シーケンスを開始します。停止する場合は六十秒以内に司令官権限キーと非常停止スイッチの同時操作を行って下さい。最終警告。対消滅炉自爆シーケンスを開始します。停止する場合は五十秒以内に……』
このメッセージにMCRのオペレータたちは顔色を失い、カオ司令に詰め寄っていく。
「し、司令、何をするんですか! 自爆処置は総員退避完了後とマニュアルに定められています! すぐにキーを渡して下さい!」
「うるさい、うるさい、うるさい! 私が司令だ! 私の命令に従っていれば良いんだ! 私はやり直す、一度リセットして……」
彼の目から理性は失われており、口からはよだれが零れていた。
部下たちは時間がないと、司令に飛び掛りキーを奪おうとするが、カオ司令は腰のブラスターを引抜き、味方に向け発砲し始めた。
「貴様ら敵の工作員だな! そうか、だから失敗したんだ! 私は敵の工作員に嵌められたんだぁ!」
錯乱した彼は、ブラスターを四方八方に向けて滅茶苦茶に発砲し、数人の部下が凶弾に倒れていた。
部下たちも自分の命を的に踏み込むことに躊躇するが、すぐにAIの警告が耳に入り、司令に決死のタックルを決め、遂にキーを奪うことに成功した。
しかし、その時既にカウントダウンは終了していた。
『対消滅炉自爆シーケンススタート。
AIの淡々とした声が静まり返ったMCRの中に流れていく。
一瞬の間の後にオペレータたちは慌てふためくが、逃げるすべが無いと諦め座り込む者、元凶となったカオ司令に殴りかかる者など完全にパニックになっていた。
汎用艇の存在を思い出したオペレータは自らが助かるため、静かにMCRを出て汎用艇格納庫に向かう。
だが、減圧対策で緊急閉止されたシャッターが立ちはだかり、格納庫に向かうことができず、その場に膝から崩れ落ちていく。
汎用艇の操縦士は自爆シーケンス開始を知り、すぐに発進を決意するが、MCRのオペレータは何度呼んでも応答してくれない。徐々に失われる時間にパニックに陥った操縦士は発進口のゲートを無理やり開くため、ミサイルを放った。
彼の思惑通り、ミサイルはゲートを破壊し、宇宙空間が彼の前に広がった。
操縦士は助かったと喜ぶが、その目の前には破壊されたゲートが迫っていた。三秒後、汎用艇の操縦席は完全に破壊され、操縦士も艇と運命を共にした。
ゾンファ軍の拠点クーロンベースは多くの作業員を道連れに自爆の道を突き進んでいく。
AIのカウントダウンが二分を切った。
「リアクターアッパーリミット到達予想時間一分四十秒……」
MCRではすべての警報は停止し、オペレータや作業員たちのすすり泣く声が聞こえるだけだ。既に数人のオペレータがブラスターで自殺しており、血や焼けた肉の臭いなどがするが、誰も気にしない。
カオ司令はMCR要員たちに殴られたり蹴られたりした後、ブラスターで撃ち殺されていた。
その顔には満足そうな笑顔が見え、それがオペレータたちの怒りを更に掻き立てた。
そして、カウントダウンがゼロになった。
対消滅炉は炉構造体の安全限度を遥かに超える定常出力の千倍以上のエネルギーを、一気に解放し爆発した。
ベース内はMCR、ドック、通路を問わず、一瞬にして白く強い光に包まれ、すべての物が消え去っていく。
アルビオン軍にAZ-258877と名付けられた小惑星はそのピーナッツ状の膨らんだ部分が更に膨らみ、真っ白な光が弾ける。そして、小惑星を構成していた岩石が無数の礫となって宇宙空間に飛んでいった。
ゾンファ軍によって造られたクーロンベースは、多数の人員と共に一切の痕跡を残さず消滅した。
■■■
クーロンベースで自爆シーケンスが進行している頃、アルビオン軍スループ艦ブルーベル34号は敵通商破壊艦P-331に向けて加速を続け、敵への最接近まで一分を切った。
既に
また、エネルギーの供給を行う
戦術士のオルガ・ロートン大尉が、「カロネードによる攻撃準備完了」と報告する。
エルマー・マイヤーズ艦長は、「了解、カウントダウンを開始せよ」と攻撃を承認した。
三十秒後、すべてのカロネード砲から金属製の散弾が射出された。
「全砲射出良好。散弾の到達時間、約三十秒後。
「了解、主砲による攻撃を開始せよ」
艦長の命令が復唱され、主砲が撃ち出された。
その後、ロートン大尉の立案した攻撃パターンに従い、主砲が発射されていく。
ブルーベルの主砲が発射された直後、CICの床が微かに振動し、メインスクリーンには敵の攻撃が開始されたという表示が出ていた。
敵艦も同じタイミングで攻撃を開始したのだ。
「防御スクリーン負荷九十パーセント。現状では問題ありませんが、最接近時には安全限界百五十パーセントを超える見込みです」
すぐに情報士のクイン中尉が報告する。
ブルーベルは〇・一光速まで加速しているため、敵との距離は一気に縮まり、既に二光秒を切っていた。
「散弾到達まで十秒、九、八……」
カロネードから撃ちだされた散弾が到達するカウントダウンが開始された直後、メインスクリーンに映し出されていた敵ベースが一気に膨れ上がっていくのが見えた。
「敵ベースで爆発! 対消滅炉の暴走と思われ……」
クイン中尉の報告に索敵担当下士官の声が被さる。
「高速飛翔体四基、いえ、八基接近中!
敵との交戦が始まった瞬間、敵ベースで爆発が起こり、同じタイミングでユリンミサイルが多数飛来してきた。
マイヤーズ艦長はCIC内の動揺を抑えるため、命令を叫んだ。
「ミサイルを迎撃せよ! 敵ベースはとりあえず無視しろ! 敵艦の動きにのみ集中せよ!」
マイヤーズ艦長の叫び声が響く。
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