整形水 ー2021.11.10.

監督:チョ・ギョンフン

2020年



「メディアに奪われる体」

言わずと知れた韓国は、昔からの美容大国だ。

ワールドカップ日韓同時開催の頃すでに「韓国美容ツアー」が用意されていたなぁと思い出す。

なので整形も先駆けてカジュアルだと聞くし、

近頃では美男美女ぞろい。韓国俳優やアイドルも世界レベルで有名である。

なるべくして競い合うバラエティ番組も人気なのは言わずもがな。


そんな背景を思い浮かべながら観ていると、

国内にある過剰なルッキズム、もたらす劣等感や競争を思い浮かべずにはおれないし、

グロテスクとある種ナンセンスな表現で、

過剰に意識、追及されるあまり「美」が売買されていることへの「痛烈な風刺」を本作に感じた。

それは完全なブラックユーモアとして描かれたラストのように、

個人のモノであるはずも、いいようにあおられ操られるまま「メディアに奪われてしまう体」

もしくは「見失う自分自身」という強烈なメッセージを想起させる。

直接、血しぶきが飛ぶよりも、この身近さにうすら寒い恐ろしさを感じた。


もちろんアニメ特有のかっとんだバカホラー話としても見てもいいし、

綺麗な3CGアニメを楽しむのだっていい。

加えて先述したように、今に警鐘を鳴らす「寓話」として鑑賞したならば、

なかなか痛烈にうまくできているいな、と感じて止まない。



この作品、終盤がコワイのだけど笑えてもくるのである。

そりゃないぜ。

思うシチュエーションが待っているのだが、

もうそこは妖怪奇譚の域なので、いわばファンタジーの世界だ。

それはある状況のメタファであり、超現実的展開と受け取っていいだろう。

これは文字でも可能な、むしろ文字の方が得意な手法だと思っている。

たとえば「奴は背中に目がついている」という表現。

もちろん目は背中についておらず、それくらいスキがないというたとえなのだが、文字ならまんま一行で、本当に背中に目を貼り付けることができる。

この滑稽でありながら恐ろしくもある超現実シュールな世界の破壊力たるや、

読者を一気に独自の世界へ引きずり込める。

ネタバレになるので本作においてを具体的に挙げることは控えるが、

文字ではない映像作品において、アニメだからこそやってのけられたその辺り、

つい真面目に理詰めで考えると思いつかない手法のため、その手があったな、と再認識することができた。

また感情の混ぜ合わせとして、怖いのだけれどなんだか笑えてくるという意味本当の悲劇についても考えさせられる。

現実離れしているからこそ恐ろしくもあり、そりゃないぜ、と確かに笑えてくる人間の感情はどうにも不思議だ。

同時に怖いから泣き叫ぶ、で単純に割り切ってしまう恐怖の底見えを感じてしまうし、笑えるほど実は底の見えない不気味さに、笑ったあと襲い来る肌寒さに格別を思う。

そしてこうした感情面の複雑さはやはり、ある程度経験しないと作品にも反映することはできないのではなかろうか、と思わずにはおれない。

山より大きな猪は出ず。

ここでも我が座右の銘の登場なのである。

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