レ・ミゼラブル ー20.7.8.

監督:ラジ・リ



「全編が長い長い答え合わせ」

ビクトルユーゴーの「レ・ミゼラブル」と同じタイトル、同じ場所だが、

ジャンバルジャンもコゼットも出てこない。

舞台は現代のパリ、そのスラム街とでも言えばいいのか。


全て実際に起きた出来事に基づいている本作。

低所得者ばかりが住む地域で対立するグループや、その緊張感へ一石を投じる少年が絡み、迎える大事件が目には目を歯には歯をと連鎖してゆく。


エンタメ特有のカタルシスはどこにもない。

なぜなら全編を通して、ひたすら結末の一瞬を検証し続ける映画だからだ。

そしてその結末は見た者の心の中にしか存在しない。

果たして見て来たこれまでを踏まえ、鑑賞してきた者はどう決着をつけるのか。

訴えかけるスタイルだ。


実際に起きた出来事だというが、だからしてこれは寓話であり、

たとえ話を用いた実験映画なのではなかろうか、とさえ感じてしまった。

突き付けられて国も人種も関係なく我が身を振り返ったとき、少し背筋に寒気を覚える。


だが確かに人は何もしゃべれず右も左も分からないところから始まるわけで、

そこへどんな種をまいてはぐくんでゆくのか。

あらゆる地域でモメごとが勃発し続けている今、

私たちはちゃんと望ましい「未来」を育てられているのか、考え込んでしまった。



社会派ほどうがった見方は禁物なのだな、と思う。

つい硬派となれば「うらのうらのうら」をかくような、

世間の骨の髄までしゃぶり尽くして知り尽くした、うんぬんかんぬんを連想してしまうのは己だけなのか。

だが事実を事実のままに差し出すからこそ社会へ「訴える」ことが出来るのだからして、むしろ飾り気ももったいぶることも、ましてや深読みのし過ぎなどなくただポイ、とナマモノを披露すべき、がこのジャンルなのだろう。

これは深刻さ、シリアス、にもつながるような気がして、過剰な演出が効いているから深刻となりシリアスであり続けるのだというものはおそらく、物語中で起きていることが深刻でもシリアスでもないからして、それらが必要なのだろうと思える。

緊張感、深刻さこそ素で、シンプルで勝負。

そんな喝を入れられたような気がする一作でもあった。

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