陰陽師は白冥の名に応える

東雲

第1話 

 暗い闇に女の呻き声が響く。

 室内に灯された橙の灯りは遠く、籠った空気を払う為に上げられた半蔀の先は夜闇だった。

 女の目には闇ばかりが纏わり付いていた。

 身体を引き裂くような痛み。熱いのに、指先が冷えていく。

 暗い、冥(くら)い闇が来る。

 女を招こうと闇が手を伸ばす。

 振り払う力はない。それ以外に力を使わなければならない。

 異様に膨らんだ腹に力を込める。

 誰かの声がする。慣れしたんだ声なのに聞き取れない。

 意識が遠くなる。

 まだ。まだ駄目なのです。

 女は己を叱咤するが抗えない闇がある。

 刹那、真っ白な光が目を焼いた。

 目を見開き、焼かれた眼で夜闇の天を見つめる。

 暗闇を真っ白な光が引き裂いている。全てを斬り払うような凄まじい光。纏わりつく冥い闇すらも斬り祓うよう。

「……祓い……星……?」

 女は掠れた声で紡いだ。

 途端、全身に力が甦った気がした。

 はっとして力を込めると腹からそれは漸く押し出された。

 騒ぐ聞き慣れた声に混じり、高い鳴き声が―産声が上がる。

 今まで聞き取れなかった耳が明確に言葉として捉えた。

「おめでとうございます!元気な、男です」

 女は目尻に涙を溜めて、微笑んだ。

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