12.みこ様とあの男の再会…。
みこが編入学してから、1か月半ほどが過ぎた。
期末テストも本日が最終日で、ボクとみこは準備してきたことを答案に書いていく。
中学時代の定期テストと異なり、数学も証明のような問題が多くなる高校の定期テストは、国語を得意とするみこにとっては、それほど苦痛ではなかったようだ。
中間テストのときは、時間配分で若干失敗した教科もあったようだが、期末テストではそういったことは起こらなかったようで、本人曰く「まあまあ取れてるはず」とのことだ。
前回の中間テストからいうと、まあまあというのは彼女にとっては80点以上だったりするので、十分優秀なのだが…。
みこは部活見学はあの事件以来やっていない。
と、いうよりも彼女の部活に対する気持ちがかなり盛り下がってしまったようだ。
だから、彼女はボクが部活動の日は図書室で本を読んだり自習をしたりして待ってくれている。
図書室であれば、騒ぐこともできないし、周囲の目もあるので、襲われることもないだろうという考えだ。
「じゃあ、また後で迎えに来るからね」
「うむ。今日でテストは終わりだから、久々に本でも読み漁ろうと思っておったから、いいタイミングじゃ…」
みこは図書室のドアを開け、入っていく。
山岳部の部室は、同じ階の廊下の端だ。この近さも安心できる要因だった。
ボクは彼女が図書室に入っていくのを確認して、山岳部の部室に向かった。
妾は、窓際のみんなから見える席に陣取り、荷物を置いた。
最近はいつもそうだ…。
死角になるところには絶対にいかないようにしている。
そもそも妾は姫巫女であるが、神通力などが使えるわけではない。
それに妾の華奢な身体では男子から襲われても反撃のしようがない。
もう、自己防衛をしていくしかない。
妾は荷物を置くと、書籍棚に向かう。
氷山高校は県立高校にもかかわらず、蔵書数も多く、興味の惹く本も多い。
妾が今回読みたいと思っていたのは、『自然科学』についてであった。
妾以外にも何名か席に着いて読書や自習をしている者もいるが、テスト期間中のそれとは異なり、人数もかなり少ない。
自然科学の棚を見てみると、難しい言葉のオンパレードのようなタイトルだからで、読む前から心構えが必要だと感じる。
いくつかの書籍を取り出し、目次をチラチラと見てみる。
(うむ、これにしよう…)
私は書籍を借りるために受付に向かおうと顔を上げると、そこには、清水さんが立っていた。
本に集中し過ぎていたのか、彼女の存在に気付かずにビクッと震え上がる。
清水さんは妾の右隣の席で初めて友だちになった子だ。
妾は、彼女に手を振る。
すると、清水さんは近づいてきて、ヒソヒソ声で話し始める。
「今日は部活はないの?」
「うん。試験明けはサッカー部は休みなんだって。明日から始まるんだ。みこちゃんはどうして図書館に?」
「妾は雄一の部活が終わるまで、ここで本を借りて読んだりしておるのじゃ…。難しい本は読みごたえもあるが、その分教養も身に良くつくしの」
「すごいねぇ…。高1からそんな本読んでるなんて…」
「ちひろさんも読んでみたら? 意外と面白いよ」
「私は止めとくわ…。頭から煙が出そうだもの…」
「ところで、何か用なのか? わざわざ図書室にちひろさんが出向くこともそうないように思えるのじゃが…」
「あ、バレちゃった? それなんだけどね…。みこちゃんに会いたいって言ってる人がいるの…」
「ん? 妾に会いたい人? どのような人じゃ?」
「ウチの先輩なんだけど…」
「サッカー部の…?」
「う、うん…。ダメかな…」
刹那、ゾワリと全身に寒気が走り、嫌な予感がする。
清水さんは前の事件のことを知らない。
妾が襲われたことは誰にも報告されていないし、オフィシャル上では何も問題はなかったことになっている。
正直、あの男―――保田勇樹であるならば、こちらから願い下げだ。
次に襲われたら、きっとヤツのことだ。荒立てたことをし始めるだろうし、妾に対して邪まなことをし始めるかもしれぬ…。
「ちなみに何という人じゃ?」
「高3の保田勇樹先輩なんだけど…」
やはりか―――。
あれ以来何もしてこなかったが、まさか、1学期終了日に手を出してくるとは思わなかった…。
「その先輩は実は面識があるのじゃ…」
「え? そうなの? じゃあ、会ってくれる?」
「い、いや、さすがにちひろさんのお願いであっても会えない…」
「え? どうして…?」
清水さんは状況を知らないので、自分に少しずつ圧を掛けるように、近づいていく。
妾は本を盾にするように持ち、少しずつ
それと妾は気づいた。
今の場所がちょうど図書室では死角になっているということに…。
ま、マズい………。
後退っていくと、後ろに壁とは異なる固さのものにぶつかる。
振り返ると、そこにはあの忌々しき男――保田勇樹が立っていた。
「やあ、久しぶりだね…。月見堂みこちゃん…」
保田にギュッと抱き着き、「久しぶり…」と耳元で囁きかけてきた。
清水さんは目の前でみる妾に対する保田の行動に疑問を持ちながらも、「じゃあ、また後でね」とだけ言い残して去っていった。
薄情者と叫びたかったが、叫ばれても清水さんにとっては何のことか分からないだろう。
妾が保田に襲われかけたことを知らないのだから。
とはいえ、清水さんもこの男が女癖が悪いことくらい気づいていてもおかしくないのに、どうして先輩の言うことをホイホイと訊くのか…と妾は困惑してしまう。
「今日は、どこに行こうかな? 部室がいいかな? サッカー部のマネージャーになる気はまだ起きないのかな?」
「生憎だが、今日は人を待っておってな…。ここが待ち合わせ場所だから、他の場所に移動することができぬ…。それと、転校生特有の悩みでの、高校の成績で上位を取っていくために、ハードに勉強する必要があるので、部活動はせぬことに決めた」
「そうなんだぁ…。残念だなぁ…」
コイツは何を考えておるのか分からぬ。
分かることと言えば、妾に対してエロい視線で見てきよるという気持ち悪さだけじゃ…。
「じゃあさ、サッカー部の部室に行こうか…。そこで説得してあげるから…」
「先ほども申したが、人を待ってお…んぐっ!?」
保田の右の拳が妾の腹に突き刺さる。
口から、胃液と唾液が混ざったものが垂れる。
実力行使と来たか…!? それはマズい…。
妾はそのまま床に倒れ込むと、視界が少しずつ闇に落ちてきて、そのまま気を失った。
ボクは部活を終えると、そのまま同じ廊下の図書室に来た。
いつもみこが最近陣取っている窓際には彼女の姿はなかった。
受付に彼女のことを訊くと、気分を悪くして倒れたみこを高3の先輩が保健室に連れて行ったという。
高3の先輩?
まさか―――――!?
嫌な予感しかない。高3の先輩というのは保田勇樹のことなのではないか?
図書館の受付に訊いても、分からないとの返事だった。
マズい…。マズい…。マズ過ぎる!
保田勇樹のことを周囲に色々と訊いてみて分かったのが、見境なく女子に手を出しているということだ。
特に可愛い子に関しては、あっさりと手を出し、一線を越えているようだ。
脅迫して表立って訴えられていないが、何人かの女子生徒は、精神的に追いやられて自主退学していたようだ。
みこも腕を引っ張られて、監禁されそうになった。そのことで精神的に追い込まれていたではないか…。
これが襲われでもしたら、彼女は間違いなく学校を辞めると思う。
保健室になど連れていくはずがない!
きっとそのまま部室だ。今日はサッカー部は休みだから、部室は使い放題だ。
このままでは…このままでは……!!
ボクは慌てて図書室を飛び出した!!
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