原作者が主人公になって原作以上にカオスなゲームにする話

花道優曇華

第1話「物語を始めよう」

エスメラルダ家は貴族だ。

その一人娘ルーチェ、彼女を取り巻く使用人たち。

使用人の中には人外が存在する。

ルーチェの正体は彼女たちが登場するフリーゲームの製作者。


このゲームについてはイマイチ方向性が決まらずに終わっていた。


なら私がこのゲームの主人公として良いENDに物語を持っていく!


「おはようさん」


藍色のシャツを着た執事がそう声を掛けて来た。使用人らしからぬ

ラフな言葉遣いだ。だがルーチェは気にしない。客が来ている間だけ

言動に気を付けてくれればそれでいいかな、と考えている。

彼にはアランという名前がある。


「アラン…サボってる?」

「まさか。細かい家事は俺よりも向いてる奴らがいるだろ。さっさと

起きろよ御嬢。でないと俺が叱られる」


アランは面倒くさそうに言う。ルーチェは体を起こす。彼の正体は

暴食を司る悪魔だ。グラトニーと呼ばれることがある。真名として…。


「大丈夫だよ。起きるから」


ベッドから降りて、下の階に向かう。その食堂には既に使用人と

父が揃っていた。父親はほとんど廃人のようになっている。

妻の死と彼は向かい合うことが出来ないのだ。

そういうルーチェも心に穴が空いていた。


「私は部屋に帰るぞ」

「そんな。だってまだ料理が残ってるのに…」

「御嬢。そっとしておけ」


アランが彼女を止めた。父親を心配していることは分かっている。


「御嬢様、貴方はどうぞゆっくり食事をしてください」

「そういえばミトス。お前は食ったのか。俺は食ったけど」

「俺も食べたよ。食べてないのは色々手伝わせてしまったメイドたちと

ルーチェ様だけさ」


赤いシャツを着た執事、ミトスもまたアランと同じ悪魔だ。

そしてルーチェの両サイドには向かい合うように二人のメイドが

座っていた。一人はお淑やかなメイドだ。桃色の髪を持つメイドの名前を

シェリア。そしてもう一人は金髪のドジっ子メイド、ナナリー。


「さぁ、食べましょう。ルーチェ様」

「そうだね。じゃあ食べよう」


と、食べてはいるが何処か空気は重い。女人だけが今は屋敷の食堂にいる。

執事二人は食堂を出ていた。


「話し声が一つも聞こえねえな…」

「ルーチェ様とシェリア達、どちらも思うところはあるんだろう」


ミトスは壁に背中を預ける。その隣で同じようにアランも背中を

預けていた。

食事が始まって10分程度で一人、ナナリーが出て来た。


「お、美味しかったです!私は旦那様に呼ばれていたので…行ってきます!」

「あ、待ってください。ナナリー」

「ひゃいっ!」


変な返事をしたナナリー。彼女は赤面しつつミトスを見た。ミトスと

アランの正体をナナリーは知っている。


「エプロンのリボンが解けそうですよ。そんな姿では旦那様に

叱られてしまいます。さぁ、後ろを向いてください」

「しゅ、しゅみません…」


ナナリーは後ろを向いた。ミトスは慣れた手つきでリボンを結ぶ。


「窮屈感はありますか」

「大丈夫です」

「それは良かった」


それを見送った後にミトスは何かモヤモヤとした気持ちになった。

何かが起きそう。それも良いことではなく、この屋敷にとっての

悪いこと。


「起きねえとは言えねえな。この屋敷の事だからな」


悪魔は現世とは切り離された場所に本来ならいるのだ。人間と顔を

まともに合わせるとなれば彼らが黒魔術を使う必要がある。

この屋敷にいるアランとミトス。

つまりこの屋敷には儀式用の部屋が存在する。

その部屋は少なくともルーチェの母がいた頃には存在していなかった。


「俺たちは契約に縛られているからな。何が起こっても、少なくとも

ここで契約が交わされた悪魔以外の誰かだ」

「まあな。さて、そろそろ出会ってる頃かな?御嬢と吸血鬼」


二人はあることを狙っていた。

いつか屋敷で何かが起こるときにルーチェを名探偵に仕立て上げようと。




そうだ。

このゲームは他にも存在するゲームのオマージュがそれなりに入っている。

人外と人間のミステリーアドベンチャーゲーム。そして主人公の原点が

この出会いだ。


「あの悪魔が自分から動くとは珍しいと思っていたが、これを狙っていたのか」


傲慢不遜な吸血鬼は探偵に執着する。

この吸血鬼アイン・ミッドナイトとルーチェ・エスメラルダ(原作者)の

出会いから物語は本格的に動き出す。




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