召喚術師と被召喚者の関係性について

秋元 あきむ

プロローグ:召喚術師の街

静寂を破る

 アストリア国首都。


 街は城塞都市ゆえの強大な外壁と、さらには広大な自然に囲まれていた。

 冬の息吹が地中深く潜り込むなか、一体が曙光に照らされる時間帯を迎えている。 


 都市の住人がゆっくりと活動を始め、家々の屋根からは煙が立ちのぼり始めた。街全体がひとつの生命のように熱を帯び、どこか人々の律動が感じられるそんな粛然とした朝だった。

 

 外壁上で警備していたのは、配属されたばかりのとある新兵だ。

 朝焼けに目を細め「どうやら無事に夜が明けたみたいだ」と眠たそうに大きな欠伸をひとつする――。


 そのときだった。


「――――っ!」


 巨大な爆発音が、大気を揺らす。

 睡魔に次ぐ衝撃で、若い兵士は倒しそうになった槍を慌てて抱き寄せた。


 気づけば、外壁を往来していた他の兵士たちも何事かと一箇所へと集まっている。若者も遅れるように合流しては、石積みの間から南部方面へと視線を向けた。


 先ほどの爆音に驚いたのか、広大な森から鳥の群れが飛び立っている。

 その様は天変地異を告げるようで、兵士たちは森手前の草原へと視線を移した。


 そこには、立ちのぼる一本の黒煙が見える。


「敵襲か」


 兵士たちが緊張で身を固くする。防衛を任されている者にとっては容易に想像された事態とはいえ、緊張が皆無ではなかった。

 

 ――ただし、非常時は何も他国からの侵略だけを意味するのではない。

 街の平和を脅かす存在というのはどこにでもいるものだった。


『彼らは、盗賊の討伐に行くらしいぞ』


 そう夜明け前に他の兵士から教えられていたことを若者は思い出す。

 今朝の夜陰に包まれながら城壁門を通行する三人組の姿を見送ったことを――。


 それは、騎士と術師が馬のくつわを並べる姿で、その後ろを見目麗しい女性がひとりいた。馬に跨る場違いな姿に首を捻った記憶がまだ新しい。 


 彼らの姿を瞼の裏に貼りつけながら、兵士はもう一度草原を眺めた。


 やがて――。

 壮年の部隊長が鷹揚な足取りでやってくる。

 兵士たちは道を空けながら凶報の元と思われる方面を指し示した。


 程なくして、この事態を正しく把握したように部隊長が強く頷く。

 他国からの敵襲にしろ盗賊の仕業にしろ、戦闘に向け的確な指示が出されることだろう。


 若者の槍を掴む手に、一層の力が入る。慣れない戦いの恐怖からか膝は笑っていた。

 だが部隊長は豪奢な口髭を動かす前に、ゆっくりと首を横に振った。


「あれは、また彼らの仕業だろうな。問題ない。各自、持ち場へ戻るように」


 苦笑を浮かべながら、兵士たちへと散会を指示したのだった。

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