「出ていきなさい!」とダンジョンマスターである親からダンジョンを追放されました

しぇからしか

第1話「出ていきなさい!」と言われました。

「出ていきなさい!いつまで引きこもりをしているの!お隣のスライム家のアオちゃんなんて立派にダンジョン経営してるでしょ!」



「そうだぞ!いつまでも私たちが生きているとは限らないんだからな!今はママがダンジョン経営できてるけどこれからもそうとは限らないんだ!自分の力で生きていきなさい!」



そう言われて、自宅であるダンジョンから追い出されました。



遡ること1時間前。


「母さん。朝ごはんある?」



「もう!何時だと思ってるの!今ダンジョンに冒険者が来ていて大変なのよ!あなたも何か手伝いなさい!」



母さんはそう言いながら、部下のモンスターたちに、侵入してきた冒険者たちの対応を任せて僕に向き直った。

今、ダンジョンは侵入者の対応で忙しいらしく、あちこちで雇われモンスターたちがバタバタと動き回っている。忙しそうだ。

こんな時はさっさとズラかったほうがいいだろう。



「はーい。気が向いたらね〜。」



「……待ちなさい。パパを呼んでくるからリビングで待ってなさい。…いいわね。」



母さんがいつもとは違う威圧感を放ちながら僕に言ってきた。これは無視したら大変なことになると容易に想像がついた。



「わ、わかったよ。」



そう言って僕は急いでこの場を離れた。

後ろからジッと見つめてくる母さんから離れたくて。



では、ここで我が家兼ダンジョンの紹介をしよう。我が家は5階層のダンジョンである。

ダンジョンは地上部分に1階層があり、順に地下へと階層が増えていく。最下層が僕や母さん、父さんが暮らす生活空間のある自宅である。1階から4階が母さんが雇っているモンスターたちの仕事場となっていて、24時間冒険者たちの侵入に備えて勤務している。

時間のあるときは、筋トレや食糧生産のための畑耕しなどをしているそうだ。ダンジョンは階層がそれぞれとても広いから有効活用するのはいいことだね。

ところで、このダンジョンは人間たちから危険視されているらしく、定期的に侵入者がやってくる。しかし、3階層までが限界らしく4階層までやってきたことはないらしい。5階層のボス担当である父さんは「敵が来ないんだよ〜」とよく母さんに泣きついて人事異動ならぬモンスター異動を申し出ているが受理されないらしい。そんなこんなで割と安全地帯な我が家は僕にとって楽園である。

生まれてこの方、特に何をするでもなく5階層でダラダラゴロゴロとしていた。本を読んだり、昼寝をしたりして生まれてこの方5年くらいはこうして過ごしている。



そう、冒頭で母さんと父さんから「出ていきなさい!」と言われるまでは。

まさかいつもは優しい父さんもあんなに言ってくるとは思っていなかった。

まぁ、人生経験だと思って僕も家を出てみるか。そう思ったので、部屋からリュックと水筒と枕を持って家を出た。

母さんなんて涙を堪えているのがわかるくらい震えているし、父さんも優しく母さんの肩に手を回して僕の方をじっと暖かく見つめてくる。

なんか僕の方も感極まりそうで困ったよ!



かつてモンスターは、人間たちから追いかけられ殺されたりすることが今よりも多かった。そこで、モンスターたちは邪神様に祈りを捧げて救いを求めた。すると、邪神様たちはモンスターたちにダンジョンという家を用意してくれた。

曰く、「そこは君たちの努力次第で人間たちからの暴力に対抗できる存在になるよ。

だけど、努力しないとダンジョンはただのハリボテに成り果ててしまうから頑張ってね〜。」ということらしい。

これがモンスター歴史書の内容だ。


その後、何匹ものモンスターたちがダンジョンとは何かを研究してみて分かったことがある。その研究結果によると、ダンジョンは責任者を自ら1匹指定して、その者の特徴や要望に合わせてダンジョンを作り上げていくらしい。ダンジョンには最下層にダンジョンコアと呼ばれる水晶があって、それが直接ダンジョン責任者と意思疎通を行うらしい。

母さんもいつも突然喋り出したりするから見慣れている。僕にはただの水晶に見えるけどな…。



えっ?僕の種族は何なのかだって?

僕はゴブリンさ。よくゴブリンは女性を見ると見境なく襲うって言われるけど、そんな誹謗中傷やめてほしいよ。そんなことするわけないでしょ?それは人間たちの偏見によって言われ始めたんだよね。人間は苦手だな。


さて、では今からどうするか…。

うーん、とりあえず「何でも屋」に行って仕事を探してみるか。

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