49


 まさか女子と二人で祭を見て回るなんて、思ってもいなかった。いつもの彼女なら、横を向いても視認出来ないけれど、今日の彼女は長い髪を盛りに盛っていて、その分高くなった部分だけは視認出来る。何を隠そう、生徒会長様だ。


 紗凪もそうだけれど鸞子の手は更に小さくて、少し扱いに困る。あまり強く握ると潰れそう。


「のじゃのじゃらんらん、のじゃらんらん」


 なんかめちゃくちゃご機嫌だな。


「なぁ鸞子。せっかくだからくじ引きとか色々回ろうか」

「おうなのじゃ! お主の行きたいところで構わんのじゃ」


 紗凪たちは見当たらない。けれど金池がいるし安心か。僕も少し楽しむことにしよう。

 側から見れば妹連れの兄にしか見えないであろう僕は、妹、もとい、会長殿を連れて金魚掬いに射的、更にはくじ引きとまわり、屋台でたこ焼きを買いベンチに腰掛けた。


「熱っちゃのじゃらば!」


 え?


「馬鹿だな鸞子、一口で食べようとするからだぞ? お前、口もちっこいんだから、こうして二つに割ってだな」


 熱々のたこ焼きを切り分ける。

 ふと視線を感じて、鸞子と目が合った。


「あ、あ〜ん」

「いや待て、おま、それくらい自分で……」

「あー……」


 頬を赤らめたこ焼きを待つ鸞子。

 僕は無意識のうちにたこ焼きを取り、その小さいお口に、そっとお届けする。


「はむ、ふむふむ……お、美味しい、のじゃぁ」


 あれ? なんか可愛いんだけれど、き、気のせいだよね? と、僕が思考停止状態に陥っていると、今度は鸞子が僕の口にたこ焼きを運んで来た。


「あ〜ん、なのじゃ」

「え、いや、えと、あ、あ〜」

「のじゃら!」

「ぶあっちゃぁーーーっ!!!!」


 殺す気か!!!!

 けれど、今日の鸞子は本当に彼女みたいだ。鸞子となら、楽しい日々を送れそうな気がした瞬間だった。


「お、暗くなってきたな」

「そろそろ、時間なのじゃ」

「だな。皆んなともそこで合流出来るかも知れないし、僕たちはもう少し歩いて向かうか」

「お、おうなのじゃ!」


 僕がこんな気持ちになっていいのだろうか。

 けれども、今だけ、今日くらいは、


「お主は、……木下はもっと、自分のことを考えても良いと思う、のじゃ」


 田間鸞子。何でも見透かしてくる。

 堪らん子だよ、ほんと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る