36
「俺、ずっと好きだった。馬鹿だと思われるかも知れないけれど、あの日からずっと」
「なら何故、断った。まさか僕のことを気にしたとか言わないだろうな!」
「こ、断ったって、……何を?」
胸ぐらを掴む力が制御出来ない。僕よりも遥かに高い位置から、困惑の色を帯びた視線を浴びせる、その男とは。何を隠そう、僕の親友だ。
僕がその唯一無二の親友の胸ぐらを掴むことになった経緯を、まずは語るところから始めようか。いや、語らねばなるまい。そして聞かなければならない。
何故、紗凪の告白を断ったのかを。
時は、少し遡る。
夢咲モールで鸞子と遭遇し捕獲した日から数日後、遂にこの日がやって来た。そう、僕のリア充デビューの日が。
海までは電車を乗り継ぎ二時間ほど。僕たちは朝から行動し、昼前には目的地に到着した。
白い砂浜に青い空、どこまでも続く海。潮風が鼻腔を抜けると、海に来たんだと実感する。紗凪に視線をやると、同じく瞳をキラキラと輝かせていた。
すると、僕の肩をトントンと、細い何かが叩く。
「お兄さん、あ、後で少しお話しが」
「あかりちゃん? 話って」
「しーっ、駄目ですよ。二人で話したいんです。お昼前、あの船着場辺りで! ぜ、絶対内緒ですよ? お兄さん?」
片目を瞑り、所謂ウィンクを炸裂させたのは、上野あかりちゃんだった。紗凪は鸞子を脱がそうとしていて気付いていない様子だ。
秘密の呼び出し。頬を赤らめて僕を呼び出したあかりちゃんの思惑とは何なのだろうか。
「着替えたらここに集合、とりあえず昼までひと泳ぎしよう」と、金池の言葉で解散し、各自水着に着替えることにした。
数十分後、僕たちの前に天使が舞い降りたのは言うまでもないだろう。……言うまでもないのだけれど、描写してもよろしいだろうか。
まずは紗凪。まさかこのような光景を見る時が来るとは思いもしなかった。
白ベースに朱色のリボンをあしらったワンピースタイプの水着は、まるで甘いショートケーキの如し。白い肌を薄紅色に染めて登場する恥じらいの表情も勿論加点に値する。これには金池御大も頷かされている。そうだろう、そうだろう、紗凪、可愛かろ?
そしてお次は、紗凪の親友、あかりちゃんだ。
僕は勘違いしていた。まずはそこを謝罪しなければなるまい。あかりちゃんはミニマムでありながら巨大なお胸の持ち主であることは周知の上であり、もう少しばかりコロコロしているイメージがあったのだ。しかしそれは胸のサイズによる錯覚で、真実は否。めちゃくちゃ細かったわけで。
あかりちゃんの明るい性格にもピッタリな薄い黄色ベースの太陽のようなビキニ姿を、僕は脳内に保存した。連写でお気に入りフォルダに保存した。
「はーっはっはっは! わかっておらん、なのじゃ。水着と言えば、これしかないのじゃ!」
「わー、名前入り可愛い〜!」と、ぬいぐるみを抱き上げるように持ち上げられ、鸞子の足が砂浜から離れ
「えぇーい、持つななのじゃー!」
せっかく来たのだから、楽しむとしよう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます