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美少女が波打ち際で海水のかけ合いっこなんてして、僕はそんな平和で尊い演出を笑顔(ニヤけ顔になっていないことを願う)で見ている。
眼福、眼ぷ——
「ぷふぁっ!?」くそっ、しょっぱい!?
僕の眼福タイムを海水で吹き飛ばしてくれちゃった者とは。何を隠そう、僕の妹だ!
「兄ィも一緒に入ろう? つ、冷たくて、き、気持ちいいよ?」
「こんのやろう、やりやがったなぁ! 覚悟しやがれーっ!」
この演出、一度やってみたかったやつだ。
そのあと一頻り遊び海の家で焼きそばとカキ氷を食べるという、一見ベタではあるけれど、しかし僕には新鮮かつ尊みに溢れた時を過ごすのだ。
過ごすのだけれど、その前に。
——お昼前、あの船着き場で
そう、あかりちゃんからのお呼び出しイベントがあるのであるよ、アルアルよ。
僕は金池に紗凪たちを預け場を去る。船着き場にはまだ誰もいない。僕は少し待つことにした。
波の音。海に来たの、いつぶりだろうか。
金池はよく誘ってくれていたけれど、なんとなく人ごみが苦手で敬遠していた僕は、紗凪のことを理由に毎年誘いを断っていた。
でも今年は違う。紗凪が一歩を踏み出したのだ。
「お兄さん、お待たせしました。紗凪ちゃんたちの目を盗むのが大変で」
「うん、構わないよ? そ、それで、話っていうのは?」
「えっと……その、わ、笑わないでくださいね?」
「う、うん」
「私、す、す、す、」
「落ち着いて、深呼吸して」
あかりちゃんは顔を真っ赤にしながら大きく深呼吸をする。どうしても視線が泳いでしまう(海だけに)ので、視線を青空へ移す。
「私……す、好き、なんです……!」
キターー!
「金池先輩のことっ……好きになっちゃったんです……」
ですよねー!
「あ、あぁ、あ、あいつイケメンだしね、うんうん」と、僕は紳士に、ジェントルメンに、そして真摯に、あかりちゃんの話を聞くことにした。
心の中で涙を堪えながら。
「そうじゃないんです。金池先輩、とっても優しいですよね。学校で見るのとプライベートでは全然違ってて、本当は無理してるんだって思って……わ、私みたいなのが、し、心配することじゃないと思うんですけど……でも、金池先輩のこと考えると、胸がはち切れそうに……」
胸はもうはち切れてるよ?
さておき、これは困った。僕の淡い恋心みたいなものがあっさり消え去ったのはこの際いいのだけれど、僕の予想が正しければ、紗凪が告白した相手は金池のはず。つまり、修羅場の可能性。
あかりちゃん、本気なんだな。小動物みたいな、少しつり目がちな瞳を潤ませ俯く姿を見ると、邪魔なんて出来やしない。だからといって……
「お、お兄さん……か、金池先輩のこと、もっと色々知りたいんです! き、協力、し、してくれませんかっ?」
こんなの、断れないじゃないか。
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