28
チョキチョキ、チョキチョキ、
女子の前髪、切ったことある人、手ぇあげて。
はーい、何を隠そう、この僕だ!
と、いうわけで、今現在進行形で紗凪の前髪を切っているのだけれど、カッターで無造作に切られた髪の長さはバラバラで、中々上手くいかないわけで。
「に、兄ィ? えっと、兄ィ? ねぇ、はうっ!」
「駄目だ、やっぱり綺麗に揃わない」
「兄ィ、ちょっ、待っ……ひゃん!」
「あれ? 切りすぎたか?」
「兄ィーーっ! こ、ここ、こここここのままじゃ、ままま前髪なくなっちゃうよーーっ!! せ、世界の終わりだよー!!!!」
紗凪の魂の叫びで僕の意識が帰ってきた(いや意識何処にいたんだ)。さておき、パッツン前髪と化した紗凪は不安そうに空き地となったおでこを隠し頬を真っ赤に染め上げる。
真ん中の髪が極端に短かったのもあり、見る者からすると階段に見えなくもない斜めパッツン二段といった、そこそこ奇抜でありながら、ある意味雑誌の表紙を飾るモデルさんみたいだともとれそうな、そんな髪型に変身した紗凪であった。
「紗凪、今は僕しかいないんだし、目を開けてみてくれないか?」
「う、うん……」
まるで震えるチワワのような、そんな丸く大きな瞳が僕を見つめる。
僕はふと思い出し、紗凪の鞄を返してあげた。すると紗凪は奪うように鞄を取り上げて言うのだ。
「な、な、中はみ、見てない!?」
僕が見ていないと告げると、少し怪しんでいる様子を見せながらも渋々信じてくれた。
それから数秒の沈黙のあと、
「兄ィ、わたし、夏休み、お、お出かけ……」
正直驚いた。やはり紗凪は変わろうとしている。
「あかりちゃんとか、皆んなで、夏休みらしいこと、し、しし、したい、な」
駄目かな? と、手頃なサイズの胸をキュッと寄せ、伏せ目で身体を捩らせる。駄目なわけないだろ。何なら僕も、ここに来てリア充的夏休みを満喫出来るかも知れないのだから、一石二鳥もいいところだ。あかりちゃんと、後は金池だな。
ともあれ、紗凪が少し前向きになったのは進歩だ。次は慣れない人とも会話をスムーズに出来るようにしないと。いつまでも途切れ途切れのFM372ってわけにもいくまい。
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