会談(午前)
総統が入院し数日が経ったある日、ベルリンの市街は熱狂な活気に包まれていた。この日は第三帝国がアメリカ、イギリス、フランス、ソビエト連邦などと和平交渉をし、平和条約が締結された日。すなわち戦争に勝利した日であるからだ。
街の至る所で憲兵隊も国防軍の兵士も武装親衛隊の隊員もみないつも肩ににかけているあの重い銃をおろし、手持ちのありったけの金を使って朝から肉を頬張り、小隊の仲間や所属違いの仲間、市民たちと宴会をしている。
その熱狂の最中をヴィリー・ヘロルト親衛隊大将はあるホテルへと向かうためにかき分けて進む。本当はこの熱狂の中に混ざって楽しみたかったが、そのようなことをしている余裕は彼になかった。ただ、気分だけでも楽しもうと昼食にケバブのサンドを買い、食べながら歩を進めた。
「お久しぶりです、マンシュタイン将軍」
ビュッフェのテラス席に座り軽くこちらに手を挙げる彼に向かってそう声を掛ける。
「君と久しぶりに会えてよかったよ」
「上官のお誘いなど断る訳がありませんよ」
軽く挨拶を交わした後、彼が座る席に対面になるように座った。
「君が国防軍にいた頃が懐かしいな。そっちでも元気にやっていけてるか?」
「はい、おかげさまで。今は親衛隊の装甲師団の管轄を行っております」
「部下の出世ほどうれしいものはないよ」
「ありがとうございます」
すると彼は一度心を落ち着かせるためか手元にあるコーヒーを一口啜る。
「さあ、本題に入ろうか。ヘロルト君はこの状況をどう見る?」
「親衛隊の状況……ですか? 元国防軍人から見ますと勢力拡張に歯止めがかかっていないかと。二十年ほど前は総統閣下のボディーガード的役職でしたが、現在では独自の軍事組織を組み込みさらには警察機関も掌握。国内外の"保安活動"が行われています。親衛隊内部にはな医務局も複数設立され裁判の役を担うSS法制局や外交を行う海外ドイツ人連絡局、教育制度を修正するハイマイヤー事務局まで存在しています。」
「……立法に軍事に裁判、すべてが一つの組織で完結しているとは、まるで一つの"国"だな」
マンシュタインは多々の小さな組織が一つの国のような状態になっていることに驚き、同時に感心してしまっていた。多々の小さな組織が集まって一つの国のような状態になっていることに驚き、同時に感心してしまっていた。
「この横には国家労働者党の内閣、そしてドイツ国防軍が存在します」
「親衛隊と政府でさえ別々の組織だ」
「総統閣下の配下に位置付けられていますが……ね」
「おそらく組織が拡大しすぎて総統閣下自身も把握し切れていないのだろうな。そうであれば我々もだ」
「私も親衛隊に入ってから知ることの方が多かったです。国民以外、ましてや軍人にまで隠し通せていることがこの組織の強さの表れなのかもしれないですね……」
「彼らがもし新総統に全力して協力すれば国家の掌握は容易であろう。”X-Day“は近づいている」
「そうですね」
そう話し切ってから彼はまたコーヒーを啜った。
「して、話を変えるが、装甲師団……特に戦車師団の内訳を見せてはくれないか?」
「申し訳ありませんがそれは出来かねます……」
「無理ならいいんだ。でも、いいものを見せてもらったよ」
「いいもの、とは?」
「その忠誠心さ、親衛隊員の忠誠心が”これほど“であるとはな……」
「はあ……と、言いますと?」
「私は長らく祖国に忠誠を誓ってきた。反乱などもってのほかである。しかし、絶滅政策が、恐怖政治が日常化した今、既に守るべきドイツという存在は存在しないのかもしれないな」
マンシュタインは椅子に座って、一人肩を落としていた。
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