第375話 18章:クリスマスの夜と言えば空を飛んでリングを取る(7)

 双葉も広間の気配に気付いたらしく、静かに身を起こす。

 由依が知らないとなると、招かれざる客だろう。


「ん……それ……だめぇ……」


 なんだか夢を見ながらあえぐ美海と、まだ体が本調子ではないシスティーナをベッドに残し、オレは広間へと向かう。

 後ろからは由依と双葉もついてきている。


 広間につくと、ちょうど暖炉から尻が後ろ向きに出て来たところだ。

 本日三人目のサンタコスである。


「ちょっと……狭いですわ……もうっ。どうせなら煙突にエレベーターでもつけてくださればよろしいのに」


 むちゃくちゃなことを言いながら暖炉から後ろ向きに這い出してきたのは華鈴さんだ。


「ふぅっ。さて、みなさんの寝室はと……え゛……」


 さわやかな笑顔で額をぬぐった華鈴さんは、並んで待ち構えたオレ達を見て凍り付いた。


「こんな夜更けにおそろいでなにをしてらっしゃいますの?」


 泳ぎまくった目でそんなことを言う。


「こっちのセリフだよ、華鈴さん」


 あきれる由依だが、どこか少し楽しそうだ。


「ペ、ペアルック……どころかトリオルック……いやーんなかんじですわ!」


 本心ではあるのだろうが、露骨な話題そらしである。

 シルクのパジャマなら、もう一人ベッドで寝てるけどな。


「手引きしたのは早乙女ね」

「うぐ……」


 どうやら図星らしい。

 オレや由依のように特殊な力をもっているならともかく、普通の人間が突破できるほど白鳥家の警備は甘くない。


「どういうつもりかしら。これはさすがにあとで問い詰めないと……」

「早乙女さんは悪くありませんわ! ただ……みなさんがクリスマスパーティーをすると聞いて……その……」

「なあに?」


 冷たい目を向ける由依だが、目元がひくついている。

 必死で笑いをこらえているのだ。


「仲間にいれてほしかったけど言い出せなかったのでせめてプレゼントを渡しに来たのですわ!!」


 涙目の絶叫である。


「おい由依……」


 そのへんにしといてやれ。


「ごめんなさいね。ちょっとからかってみたかったの。捕まえたりしないから帰っていいですよ」


 仲間には入れてやらないんかい。


「め、メリークリスマースですわ!!! うわーん!!!」


 華鈴さんは白い袋を由依に投げつけると、外に飛び出して行った。


「ちょっとかわいそうだったんじゃないか?」

「ここで突き放しておかないと、彼女の場合はクセになるから」


 操縦上手かな?


「彼女にはちゃんとプレゼントを贈ってあるから大丈夫だよ」


 そういうところがなつかれる原因な気もするなあ。


「それに、今日は家族でクリスマス、でしょ?」

「そうだな……」

「んんっ、あたしもいるんだけど?」


 双葉が咳払いなどしつつ、不満げな声を漏らした。


「もちろん双葉のことも忘れちゃいな――なんだ!?」


 その場にいた三人が同時に暖炉の方を見た。


 おいおい、いくらなんでも4回目はしつこいぞ。


 そんな軽口を飲み込んだのは、『煙突の途中に発生した』気配が人間のものではなかったからだ。

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