第356話 17章:美女とヴァリアント(8)

「そんなことよりおめえ、オレ様達の縄張りを荒らしに来たのかああん!?」

「でもこいつ人間だぜああん?」

「その縄張りは荒らされたあとがあるんだが?」


 古い血痕はこいつらのものではないだろう。

 自分達のつけた血痕をわざわざ調べる理由はないからだ。


「「くっ……」」

「スィアチには随分好き勝手やられてるみたいだな」

「うるせーぞああん!?」

「ぶいぶい言わせるぞああん!?」


 使い方間違ってるぞ。

 その言葉はオレですら世代じゃないが。


「ヒミコからオレのことは聞いてないのか?」

「なんだこのやろう!」

「やろう!」


 名乗れば心当たりくらいあるかもしれないが、そこまでしてやる義理もない。

 心当たりがあると言われれば、ヒミコとの関係上、こいつらをぶちのめしにくくなるからだ。


「お前ら、ここで人を喰ったな」


 2人の口から血と臓物の臭いがする。

 オレの生活圏内――つまり、由依達に危険が及ぶ範囲での人喰いは許さない。


 オレがそう言うと同時に、2人はオレから大きく距離をとり、身構えた。


「へえ……まるっきりバカというわけでもなさそうだ」

「なんだこいつ!」

「やばいよやばいよ!」


 2人は額に汗を浮かべながらも、その体を異形に変えようとする。

 残念ながらそれを許すほど甘くもなければ、バトルマニアでもない。


「や、やるしかねえぞああん!?」


 赤髪がそう言った時、オレは既に彼の背後にいた。

 そして、手には黒刃の剣。

 直後、青髪の体がサイコロサイズに細切れになっていた。


「ヘザカル!」


 赤髪が呼んだのが、青髪の本当の名前だろう。

 自分達に別の名をつけて遊ぶのは初めて見るパターンだ。


 赤髪は紫の煙となって消えていく青髪の死体とオレを見比べると、入口へと走った。

 あいにくそちらは行き止まりだ。


「由依」


 オレがそう言うと、入口の前に突然由依が現れた。

 美海の効果範囲から出たということだが。

 既に神器は起動している。


「なっ!? どけえ!」


 赤髪が驚きつつも奮った拳を、由依はあっさりかわし、ハイキック一発でその首を斬り落とした。


「ナイスだ由依」

「まあね」


 笑顔のブイサインがかわいくてたまらんな。


「さて……」


 死体を焼いたオレは、古い血痕を調べてみる。


「どう……?」


 変身が解け、持ち運び用のTシャツにホットパンツ一枚を身につけただけの美海がオレの顔を覗き込んでくる。


「だめだ。時間がたって残留魔力が薄まっている。その上、色んな魔力がごちゃまぜだ」


 スィアチの魔力パターンを知らない以上、どれがスィアチのものかを特定するのは不可能だ


「ここもかあ」


 双葉が小さくため息をついた。

 そう、今日調べた全ての場所が似たような状態だったのだ。

 テレビであんなにも大胆なことをしたくせに、かなり用心深い。

 このギャップをどう見るべきか……。


「今日はこのへんにしておこう」


 一日で解決できるものではなさそうだ。

 ならば休息も大切だ。

 オレはともかく、由依達には特に。

 休める時には充分に休んでおかなければ、いざという時に全力が出せない。


 みんなが休んでいる間に、オレは少し調査を進めておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る