第330話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(14)
ヴェネチアではピザ屋に入った。
本場イタリアでは、ピザは専門店で食べるものらしい。しかもナイフとフォークを使うのだ。
「タバスコはないんだな」
オレがデーブルや周囲を見回すと、システィーナがくすりと笑った。
[タバスコって言ったの? ピッツァに辛いものをかけて大人ぶりたいなんて子供ね]
[こっちでは、ピザにタバスコはかけないのか]
[日本ではかけるの? 変な国ね]
まじか。
てっきり正しい食べ方だと思ってたぞ。
ちなみに味はめちゃくちゃ美味かった。
これには、ピザの味にうるさい電子の妖精も満足だろう。
[システィーナ、口にチーズがついてるぞ]
[うぅ……とって……]
オレはナプキンでシスティーナの口元をぬぐってやる。
どっちが子供なんだか。
彼女の方が年上なんだよなあ。
「むぅ……。カズ、私のもとって」
わざと頬にチーズをつけた由依が、ぐいっと顔をこちらによせてくる。
ときどきよくわからない張り合い方をするよね、このお嬢様。
「私がとってあげますね」
そんな由依の頬についたチーズを、美海が直接なめとった。
「ひゃっ。なにするの」
「カズにもチーズをつけて、舐めとってあげますね」
ぴょこんと椅子の上で飛び上がる由依を他所に、美海は指先でピザから取ったチーズをオレに近づけてくる。
どういうプレイだよ!
美海のカチューシャに魔力がぼんやり集まっている。
煩悩で神器が発動しかかっているようだが、いったいどこが妄想ポイントがあっのやら。
「由依と美海がデキてるから、カズは由依に手をださないの?」
あまりにストレートなシスティーナの質問は、イタリア語だったので、オレとかろうじて一部を聞き取れた由依以外は理解できないようだった。
「ちゃんとは聞き取れなかったけど、私とカズはステディよ」
「それも違うと思うんだが!?」
由依のやつ、旅先だからかブレーキが壊れ気味じゃないか?
なお、ヴェネチアでは「ゴンドラとおりまーす」のネタをやってやってみたが、当然ながらまだわかってくれる人は誰もいなかった。
ちょっとだけ、『あ』で始まる名前に生まれてみたい人生だった。
◇ ◆ ◇
そんなこんなで修学旅行も最終日。
ローマにもどって、バチカン美術館を自由見学だ。
「美術館と言うが……ちょっとした町くらいはあるんじゃないか?」
多少大げさではあるが、佐藤がそう言うのもわかる気はする。
なんでも、全ての順路をつなぐと7キロにもなるらしい。
世界最小の国にある、世界最大の美術館だ。
美術館といえば、都内にあるものに社会見学で行ったくらいなので、あまりの規模の違いに驚いた。
平日だというのに、中は大混雑だ。
はぐれた時の集合場所を念のため決めておき、オレ達の班はカルロにガイドを任せた。
さすが『関係者』だけあって、色々と詳しい。
最初は班員とそのホストファミリーで行動していたはずが、一人、また一人とはぐれていく。
正確には、カルロが彼らをまいたのだ。
はぐれずについていけたのは、オレ、由依、オレにぴったりくっついていた美海、そしてシスティーナである。
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