第321話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(5)
オレと由依は周囲に気付かれないよう、佐藤を飛び越えて、音も無く通路へと着地した。
念のため、二人には認識阻害魔法をかけている。
これでよほど派手に立ち回らない限り、魔力の弱い人間にオレ達の存在を認識しにくくなったはずだ。
魔力の気配は機体後方である。
この感じ……ヴァリアントか。
出発前にゲートを通過していた人間はできるだけチェックしていたのだが、まさか貨物室にでも潜んでいたのだろうか?
楽器ケースなどであれば、人間も入ることができそうだが。
オレは身を低くして通路を駆け抜けつつ、睡眠魔法をばらまいていく。
ほとんどの乗客が眠っているか、眠ろうとしているためとてもよく効く。
機内全体に一気にかけないのは、操縦席にまで届かないようにするためだ。
そして、最後尾のヴァリアントに気付かれないようにというのもある。
オレとその後に続く由依は、一瞬で機体の最後尾に到着した。
そこにいたのは、眠る乗客に今まさにかぶりつこうとするヴァリアントだった。
ヴァリアントは破れた客室乗務員の制服を着たいかつい男だ。
どういう状況だよ……。
この頃はまだ、スチュワーデスやスッチーなんて呼ばれることも多かったな。
なんてことを思い出している場合ではない。
もりあがる筋肉が制服を内側から破っているようなコレが、本物の客室乗務員なはずがない。
ヴァリアントにも特殊な性癖なんてものがあるのだろうか?
「なんだ!?」
オレ達に気付いたヴァリアントは、その身からは想像もつかない素早さで跳び上がったかと思うと、天井に着地。
こちらを見下ろしてきた。
その口からたれたヨダレが、乗客の額にぼとりと落ちる。
さてどうしたものか。
飛行機を傷つけるわけにはいかない。
不時着なんて結果はごめんだ。
ジュースター家じゃないんだからな。
結界で包んで焼こうにも、こう狭くてはやりにくい。
双葉がいてくれれば神域絶界を使うこともできたのだが……。
そういえば、高速で移動する乗り物のなかで神域絶界を使うとどうなるのだろうか。
そもそも地球だって動いているわけだが。
ただ、動いているかどうかは相対的なものなので、基準にもよるか……。
とにかく、無い物ねだりをしてもしょうがないな。
オレが目で由依に合図を送ると、由依は二人でヴァリアントを挟む位置へとじりじりと動き始めた。
「おっと動くんじゃねえ」
それに気付いたヴァリアントは、長い舌を伸ばして乗客の頬をべろりと舐めた。
だがオレはそんな調子に乗った行動を許すほど甘くはない。
機体や設備、何より周囲の人間を傷つけないよう、黒刃の剣でヴァリアントの舌をちょん切った。
「ぎゃぁぁ! 何しやがる!」
叫ぶヴァリアントを、今度は神器を発動した由依が飛び回し蹴りで、天井から引き剥がす。
さらに、こちらに飛んできたヴァリアントを、オレが水平に薙いた剣で真っ二つにした。
たがこのままでは、それぞれの肉塊が機体や乗客に衝突してしまう。
オレは肉塊を結界で包み、魔力の糸でそれらを引き寄せた。
大きな2つの風船に、真っ二つになった客室乗務員の格好をした筋肉ダルマが入って浮かんでいるような光景である。
結界は乗客の頭から天井ギリギリの高さだ。
魔法で眠らせているとはいえ、誰かが起きたらパニックだな。
半分になったヴァリアントは、なんとか結界から出ようと暴れている。
オレは結界をゆっくり圧縮していく。
結界が小さくなるに連れ、暴れるヴァリアントもやがで静かになった。
掌サイズになるころには、結界の中は紫一色になっていた。
このまま焼いてしまいたいところだが、これだけ圧縮した結界の中だと、もしヴァリアントが特殊な能力を持っていた場合、大爆発なんてこともありえる。
様子をみながら今の状態をキープし、異変があったら飛行機のドアを開けてでも外に放りだそう。
無事に着陸できたら、改めて燃やせばいい。
人を掌サイズまで圧縮しているのだからかなりの圧力が結界内にかかっている。
これをキープするのは少々疲れるのだが、眠りながらできないほどでもない。
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