第320話 16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(4)

◇ ◆ ◇


「とととと、飛んだ。飛んだよ由依さん……。鉄のかたまりがとんでるぅ……」


 イタリア行きの飛行機が離陸した。

 揺れる機内で美海が由依の腕に抱きついている。

 ちなみに席は4席横並びで、左から美海、由依、オレ、佐藤の順だ。

 美海は飛行機が初めてらしく、がくがく震えている。

 今時、ここまで飛行機を怖がるのも珍しい。


「機内食、楽しみだなあ」


 佐藤は機内で上映される映画のスケジュールを見ながら、食事に想いを馳せている。


「機内食って、冷静になるとそれほど美味しいというものではないのよね。もちろん、空の上で食べられるものとしてはすごいのだけど」


 由依がぽそりと言った。


「オレも初めての時はそう思った」

「難波って、外国に行ったことあるのか?」


 うっかり相槌をうったものの、佐藤に言われて気づいたが、オレが初めて海外に行ったのは修学旅行だった。


「いや、ちょっと機会があって、機内食だけ食べたんだよ」


 未来だと通販でそういう商売もしていたが、この頃はどうだったかな。


「へー。いいなあ」


 佐藤は深く考えなかったようで、納得してくれた。


「そういえば、サンプルがうちに届いていたこともあったわね」


 さすが白鳥家だ。

 グループ会社に航空関係もあるのだろう。


 ちなみに実際出てきた機内食に佐藤は「なんだよ、すごく美味いじゃないか!」とご満悦だった。

 楽しそうで何よりである。




 やがて夜になり、機内は消灯した。

 年頃の男女が1つの空間で寝ているのである。


「くふ……くふふ……」


 美海のように寝言で怪しい含み笑いをしてしまうのも、しかたのないこと……だろうか?

 妄想たくましいなあ。


 低いエンジン音だけが響く機内で目を閉じると、ゆっくり睡魔が忍び寄ってくる。


 オレが夢の中へ落ちそうになったその時、手にそっと温かいものが触れた。

 毛布の下で、由依が手を握ってきたのだ。

 横目で彼女の方を見るも、アイマスクでその表情はうかがい知れない。

 規則的な呼吸をしているが、まだ眠ってはいないようだ。


 優しく手を握り返すと、由依の口元がぴくりと動いた。

 一瞬、由依の手に緊張が感じられたが、ふわりと握り返してきた。


 家で二人でいる時とは違う、なんだかこそばゆくも温かい気持ちになる。


 しばらくそうしていて、今度こそ眠りに落ちようとしたその時――


 由依ががばっとアイマスクを取り、オレと視線を合わせた。


 美海のように欲情した――わけではない。

 機内に大きな魔力を感じたからだ。

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