第282話 14章:ヴァリアントが見ている(14)
「だめよ青井さん!」
赤崎に近づこうとする青井を由依が止めた。
オレも、ここで青井が喰われるのを黙って見ているつもりはない。
「ねえ白鳥さん。私も命をかけられるほど、健悟が好きみたいです。気付くのも言うのもおそくなっちゃいましたけど」
青井はどこか吹っ切れたような表情で猫を地面に置くと、両腕を開いた。
「ほら。いいよ」
「キヒヒ。いいってよ。美味しくいただくとしようぜ」
舌なめずりをしながらヴァリアントの足が踏み出される。
赤崎を殺す覚悟をするしかないか……。
これからも人を喰う可能性のある方を殺すのが、判断としては合理的ではある。
だが、青井の心に深い傷をつけることになるし、何よりオレが殺したくない。
だがそうもいかないか……。
「だめ……だ」
あと一歩でも近づけば斬る覚悟をしたその時、赤崎の足が止まった。
「逃げろ乙美……」
「いや! いやだよ健悟!」
「俺も乙美のことが好きだ。こんな風になっちまってから言っても遅いけどな。俺がどうするか、わかるだろ? 残念だけどさよならだ。明日の誕生日プレゼントは、俺の部屋にあるんだが……渡せなくなっちまったな」
「え……だめ! だめだよ健悟!」
かけよろうとする青井の肩を、由依がおさえる。
そんな由依も、今にも泣き出しそうな表情だ。
赤崎は長く伸びた爪を、自分の胸に当てた。
「おい、何をするつもりだ!? くそっ! なぜ身体を奪えない! なぜだ!」
顔の右半分だけを歪ませたヴァリアントが叫ぶ。
それは、オレがヴァリアントの魔力を抑え込んでいるからである。
魔法封じ系の術よりもさらに高難度だが、こいつほど小さな魔力であれば、短時間なら可能だ。
爪は指によっては人間のものに戻り、歯も半分ほどだけがヴァリアントの牙だ。
ヴァリアント化こそ防げているが、体への影響は漏れ出てしまっている。
そう長くは保たないなこれは……。
「お前と魂がつながってわかったよ。お前らに喰われたら記憶がなくなるんだろ? じゃあ自分で自分を喰ったらどうなるかな?」
赤崎がチラリとオレを見た。
そこまで考えてたのか。
オレは瞬時に青井の横に立つと、魔法で彼女を気絶させた。
くずれ落ちた青井の体は、由依が支えてくれる。
「ありがとな、ただもんじゃねえなアンタ。たとえ記憶が消えるとしてもこれから起こることは見せたくなかったんだ」
そう言って微笑む赤先に、オレはかけるべき言葉を持たなかった。
だが一つ、試してみたいことを思いついた。
この思いつきはタイミングが全てだ。
オレは魔力を静かに高め、時を待つ。
赤崎は胸に爪をめり込ませていく。
「や、やめろ! お前の知り合いは喰わん! 約束する! オレだって足がつくようなマネはしない方がいいって知恵くらいついたぞ!」
ヴァリアントが恐れおののくのもムリはない。
これから自分の命が散ろうとしているのだ。
「ぐ……がはっ……」
赤崎は血を吐きながら、胸に爪をめりこませていく。
つい最近まで普通の生活をしていたであろう人間がこんなことをできるものなのか?
少なくとも、最初の人生でのオレにこんなことはできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます