第277話 14章:ヴァリアントが見ている(9)
緑山邸の調査を終えたオレと由依は、赤崎家の屋根に並んで寝転び、夜空を眺めていた。
決して天体観測をしているわけではない。
屋根の下では、赤崎と青井が二人で夕食をとっている。
となりにある青井家の電気は点いていない。
どちらの両親も帰宅前なのだろう。
「となりに住んでる幼なじみと毎日ごはんかあ。いいよね、ああいうの」
由依が顔だけこちらに向けてきた。
「オレ達だって毎日一緒だろ」
ごはんどころか、同じ敷地に住んでいる。
建屋の距離は赤崎達よりも離れているが。
「それは毎日幸せだよ。でもね、ちょっと疎遠になった期間があったでしょ。とてももったいなかったなって……。知り合った人が何人も死んでいって、人生は限られてるって、痛感してるから」
思春期でもあったし、由依は神器を得て本格的に修行を始めた頃のことだろう。
なお、由依、双葉、美海には、本人達の希望で、ヴァリアントに関して忘れそうなことか起きた際、記憶定着の魔法をかけている。
戦闘経験を忘れないようにというのもあるが、オレ達だけでも死んでいった者たちのことを覚えておこうと決めたのだ。
「これからもずっと一緒にいればいい。人生はまだまだ続くんだ」
「うん……そうだね……」
由依の手が、オレの手にそっと触れたその時、下で動きがあった。
一瞬、赤崎家の中で小さな魔力が出現したのだ。
オレと由依は顔を見合わせると、音もなくベランダへと飛び降りる。
しかし、その時には既に魔力は消えていた。
カーテンの向こうでは、重なっていた影が離れ、そのうちの一つが部屋を出ていく。
やがて玄関の扉が開き、青井がとなりの自宅へと小走りで帰って行くのが見えた。
赤崎と青井、どちらが魔力を発したかはわからなかった。
僅かな魔力の残り香は、二人についていたからだ。
だが一つ確かなことがある。
その魔力は人間のものではなかったということだ。
◇ ◆ ◇
交換留学2日目。
青井が学校を休んだ。
オレと由依は一日、赤崎を監視しながら学内で情報集だ。
黄島に、赤崎と青井がそろって休んだ日がないかを調べてもらった。
該当日はなかったものの、緑山が喰われたと思われる日の翌日、青井が学校を休んでいたことがわかった。
昨日の魔力反応で犠牲者は出ていないが、2回同じことがおきている。
ヴァリアントは青井の方なのだろうか?
放課後、由依には青井のお見舞いに行ってもらった。
その間オレは、部活に出る赤崎の監視だ。
今のところ、赤崎に怪しい動きはないのだが。
状況から見て、調査対象を二人に絞ってはいるものの、まだ確証があるわけではない。
この勘が外れてくれることを祈るばかりだ。
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