第276話 14章:ヴァリアントが見ている(8)
緑山邸は2階建ての庭付き一戸建てだ。
昭和後期を思わせる古めの造りだが、バスやキッチンなどを除くと8部屋ほどがある。
豪邸とまでは言わないが、都内でこの間取りは大きな家と呼んで良いだろう。
母一人、子一人で暮らすには広すぎる。
見回すと、隅々まで掃除は行き届いている。
ただし――
「カズ……これ……」
由依が顔をしかめながら指さしたリビングのカーペットとテーブルには、乾いた血の跡があった。
染みの広がり方からして、人間が死ぬには十分な量だろう。
何人分かまではわからないが……。
リビングの食卓には、カップが4つ並んでいた。
どれも中は空だが、ポットにはまだ紅茶が残っている。
そして、4脚あるイスのうち、3脚が倒れている。
キッチンを覗いてみると、食洗機の中にも4人分の皿などが入っていた。
洗う前だったらしく、扉をあけると、鼻をつくようなきつい匂いがする。
この時代に、家庭用食洗機を導入しているというのは、なかなか先進的だ。
やっと普及がはじまった頃だったはず。
血痕とキッチンまわり以外は、キレイに掃除されている。
そんな中、壁にかけられた写真だけが、額の中で不自然に朽ちていた。
おそらく家族写真なのだろう。
背景を見るに、比較的最近撮られたものもあるようだが、いずれも顔の周辺は特にボロボロにくずれていた。
これが、ヴァリアントに因果律ごと喰われるということか。
家の中を一通り見て回ったが、これといった手がかりはみつからなかった。
やはり調べられるのは血痕くらいか。
オレは血痕の前に座った。
「何かみつけたの?」
となりにしゃがみこんだ由依を手で制し、魔力を高めていく。
こういった細かな調査は得意ではないが、かつての仲間がやっていたのを見よう見まねでやってみる。
オレは床につけた手から、ゆっくり魔力を血痕へと向かって這わせていく。
こぼれた水のように広がる魔力は、血痕に浸透し、センサーの役割を果たす。
血液が魔力を多く宿すとはいえ、ここまで時間が経っていると残留魔力はごく僅かだし、劣化も進んでいる。
魔力パターンのクセから、人数を判別するのがせいいっぱいというところだろうか。
血液に残存する魔力は人間のものと思われるのが2パターン。
そしてそれ以外……ヴァリアントのものが1パターン。
合計三人分だ。
カップも食器も四人分あった。
4人のうちだれかがヴァリアントだったとしても、そうでなかったとしても数が合わない。
前者だったら魔力は4人分、後者なら5人分になるはずだ。
4人のうち2人がヴァリアントで、片方はここに魔力を残さなかった?
もしくは、一人無事に逃げられた?
状況を見ると、どちらも考えにくいのだが……。
「何かわかった?」
オレを集中から引き戻したのは由依の声だ。
「うーん……情報は得られたんだが、よくわからないんだよな」
もう少し手がかりが欲しいところだ。
といっても、調べる対象は絞られてしまった。
残念ながらな……。
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