第258話 13章:コンプリートブルー(25)
冷泉さんにつけていたオレの魔力に反応があったのはついさっき。
白鳥家を一人で飛び出したオレは、夜の街を全力で飛んでいた。
未来の知識から、冷泉さんがヴァリアントに喰われるかもしれないと思ってすぐ、彼女に魔法をかけておいた。
彼女の近くで強いヴァリアントの反応が出たら、魔力を介してオレに通知が来るものだ。
あまり大きな魔力をつけると目立って襲われる可能性もあるため、持続時間数日程度の微弱な魔法である。
そのため、魔法のかけなおしのために、ストーカーまがいのことをする必要があったのだ。
その甲斐はあったというところなのだが、オレの予想より、襲われる時期が早い。
陽山さんとのユニットが結成されてしばらく後のはずだ。
今日の時点ではもともと、まだ喰われなかったのか、それとも歴史が変わったのか。
発信源は陽山さんと音響監督が使っていたラブホだ。
入口の外まで人払いの効果が効いている。
オレはラブホ内を、魔力の反応に向かって迷わず駆けた。
ドアの開いている部屋が一つだけある。
そこにいたのは、ベッドに気絶して横たわる冷泉さん、体の半分が異形と化した陽山さん、その陽山さんに喰われぐちゃぐちゃになった死体、そしてこちらに背をむけた女性が一人。
陽山さんの衣服と口元は血で汚れている。
どういう状況だこれは。
「あら、ここであなたがすぐかけつけてくるのは想定外なんだけど」
そう言って振り返った女性は風間さんだった。
「あんたヴァリアントだったのか……。だが、前に会ったときは違ったはず」
「ふふ……其方を騙せていたのならば、偶然できたあのクスリも効果があったと言ってよさそうだな」
「クスリ? ヴァリアントに薬物は効かないんじゃなかったのか」
「必ずしもそうではないこと、其方も知っているはずだが?」
スサノオの時に見たドラッグか。
あれを応用して、ヴァリアントの能力を抑制するクスリを作った?
なんのためにかは、目の前にいる風間さんを見ればわかる。
人の見た目をしたヴァリアントを看破できる人間などそうはいないはずだが、オレには効果的だ。
「風間さんに化けてるのは今だけってわけじゃなさそうだな。ヒミコ」
風間さんが腕を横に払う仕草をすると、その姿が以前見た顔と和装――ヒミコのものに変わった。
「この身分は気に入っていたし、全国のヴァリアントに指令を届けるのに、便利だったのだがな。残念だ」
全国にちらばるヴァリアントにどうやって指示を出していたのか不思議だった。
通信機器を持ったり、理解できる者ばかりではないはずだからだ。
それがもし、各所で流れる『風間さん』のナレーションに、何らかの方法で指示をしこんでいたとしたら……。
これでヒミコもやりにくくはなるだろう。
他にも手段は持っていると考えた方がよさそうだが。
それよりも今は、冷泉さんや陽山さんだ。
「陽山さんもクスリを使ってたのか」
「いいや、彼女は今『なった』のだよ。仕込んだのはかなり前だがね」
「仕込んだ? 人為的にヴァリアントにしたってことか?」
「おっとしゃべりすぎたな」
嘘だ。
こいつがそんなヘマをするはずがない。
その情報をオレに流してどんな得があるのか、今の時点ではわからないが。
そうしているうち、陽山さんの体が内側から膨張と収縮を繰り返す。
「むぅ……こやつもだめか……」
ヒミコがぽつりとこぼしたその時、冷泉さんが目を覚ました。
「う……っ……」
頭をおさえ、ゆっくりあたりを見回した
その目が床に転がる死体で止まる。
「え……? 安西さん……? う……おげぇ……」
その場で吐いてしまうのも無理はないだろう。
見た目のグロさもそうだが、室内は死体の悪臭で満ちている。
「だいじょ……う……ぶ……アイちゃああああああんんんんん」
3倍ほどに膨らんだ陽山さんだったモノの腕が、冷泉さんに伸びる。
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