第185話 10章:テーマパーク(14)
「あの化物と戦うのは初めてじゃないの……? 白鳥さんも、それに妹さんも……?」
宇佐野は木の陰から出て来た双葉も含め、オレ達三人の顔を順番に見た。
その顔は驚きと僅かな希望に満ちていた。
なかなか良い度胸をしている。
「こうなったら説明せざるを得ないが、その前に……」
オレは宇佐野と幼女、そして由依の傷を魔法で治した。
「傷が……治ってる? まるで魔法みたい……」
驚く宇佐野はいったんおいておき、切り倒された木々を持ち上げ、切り口をできるだけそろえた上で治癒魔法をかける。
植物ならこれで治る。
よく見るとちょっと接合部がいびつな木もあるが、それはまあ……許してもらおう。
ベンチなんかの無機物は治癒魔法では直しようがないので、このままだ。
最後に、気絶している幼女に念のため睡眠魔法をかけておく。
さて……宇佐野にどこまで説明するのがよいだろう?
他人に言いふらしたりするタイプではなさそうだが、下手に巻き込むわけにもいかない。
「私も一緒に戦いたい!」
オレが悩んでいると、宇佐野は開口一番そう言った。
彼女は矢継ぎ早に続ける。
「数奇な運命に導かれた男女が、特殊な能力を使って世界の裏に蠢く異形と戦う! こんな展開が現実にあるなんて!
もちろん秘密は守ります! 白鳥さんが『適合できた』っていってたから、コレを使えるのはレアなんだよね?」
宇佐野はカチューシャを指さした。
フィクション作品に日頃から触れているせいか、理解……というか、妄想が早い。
説明する必要がほとんどないぞ。
「だったらきっと私も戦力になるよ! 今はまだ難波君や白鳥さんの足下にも及ばないかもだけど、役に立てるようになるから! お願いします! 仲間に入れてください!」
宇佐野が真剣な顔で勢いよく頭を下げた。
「このやる気……逆に危ない気がするわ」
由依が若干引き気味に、渋い顔をしている。
「オレも同感だ。ノリで首を突っ込むと死ぬぞ。それに、今は急に非日常に巻き込まれて舞い上がっているかもしれないが、いざとなったら逃げ出したくなると思うけどな。それが生物としては正しいことだし」
「それでも私は特別になりたい!」
宇佐野がまっすぐオレを見て言った。
変身によるものだろう。カチューシャによって前髪は上げられているので、目は出ている。
「特別だと思うのは最初だけで、すぐにそれは辛い日常になるだけだぞ」
「それでも……それでも、難波君にとっての特別な一人にはなれるでしょ?」
振り絞られた宇佐野の声はかすれ、震えている。
オレは思わず、ガシガシと頭をかいた。
「たしかに戦友という意味で、ただのクラスメイトよりは特別にはなる。だけど、由依や双葉のようにはならないぞ?」
「それでもいいの」
はっきりしたオレの物言いに、宇佐野は迷わず頷いた。
由依を見ると、あきらめたように小さく首を横にふった。
双葉は口をとがらせながらも、宇佐野が抱いている幼女を眺めてる。
二人とも消極的承諾ということか。
「ここで仲間に入れてくれなかったら、一人でさっきの化物と戦いにいっちゃうから!」
「わかった、わかったよ。しばらくお試しで仲間になってみるか」
仲間にしたくないのなら、強硬手段をとることもできる。
だが、彼女は大丈夫だとオレの直感が言っていた。
おそらくカチューシャが彼女を選んだということもある。
とはいえ、まずはお試しからだ。
彼女が本当に覚悟をできるのか、決めるのはまだ早い。
おそらく、人生最大の覚悟となるからだ。
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