第178話 10章:テーマパーク(7)

「キャットトイコースターたのしみー!」


 パーク内でも1、2を争う人気アトラクションに並び始めて一時間。

 やっと乗り場が見え始めている。

 キャットトイコースターは、パーク内を駆け巡るジェットコースターだ。


「ネコがおもちゃの列車に乗る設定なんだね!」


 双葉は待機列が通る建物の凝った内装にいちいち興奮している。

 ちなみにこのキャットミーランドは、お客さんもみんなネコという設定だ。

 パーク内の建物のサイズ感も全て、ネコから見た視点となっている。

 視界に入る全てがその設定を守っているので、ふらふら歩くだけでも楽しい。

 それはわかるのだが……よくテンションが保つなあ。

 双葉は一日中はしゃいでいる。

 まもなく日も暮れようというのに、まだまだ元気だ。


 オレはもう一日中連れ回されて疲れ……てない!

 転生前は苦手だった高速ライド系も余裕だ。

 これぞまさに異世界帰りの効果である。

 こんなところで役立てるつもりは全くなかったが。


「ねえお兄ちゃん、学校の人達と合流したかった?」


 双葉がオレを見上げながらそんなことを訊いてきた。


「いいや、今日は双葉と約束してたからな」

「約束がなかったら一緒に行ってた?」

「ん……たぶん断っただろうな。ああいうタイプとはあまり気が合わないからな」

「そっか、よかった」

「あんまりよくないとは思うが」


 悪いとも思わないが、コミュ力という意味ではああいった連中とつきあえる方が、人生お得ではある。


「お兄ちゃんにはあたしがいるから大丈夫だよ」


 前の人生でずっと護ってもらっていたことを考えると、実に説得力のある言葉だ。


「ありがとな」


 今度はオレが護ってやるという意味をこめて双葉の頭を撫でてやると、彼女は目を細めて嬉しそうに微笑んだ。




 そしていよいよ、キャットトイコースターに乗り込んだオレと双葉。

 ただ走るだけでなく、その視界にはパークの世界観に没入させるオブジェクトなどが多数配意されている。

 本当によくできたパークだ。


「きゃー!」


 双葉はとなりで両手を上げ、楽しそうに叫んでいる。


 オレはドライブ中の助手席に座るように、のんびりと景色を眺めていた。

 すでに日は沈み、星が煌めき始めている。

 よく考えると、ただ高速で走ったり回転したりするだけのもので楽しめるというのも不思議な話だ。

 これを最初に発明した人は偉大だと思う。




 キャットトイコースターを下りたころには、キャットウォークパレードを見ようとする人の流れができていた。

 キャットウォークパレードとは、パークのキャラクター達が、踊りながらパーク内を練り歩く人気コンテンツである。

 双葉もこれを見るのを楽しみにしていたようだ。


「ほらお兄ちゃん、見える場所がなくなっちゃ……あれ……?」


 オレの手を引こうとした双葉が、自分の頭を触ると、その顔が真っ青になった。

 彼女の頭にあったはずのカチューシャがないのだ。


「どうしよう……。お兄ちゃんにもらったカチューシャ、落としちゃった……」


 プレゼントでもらったということもそうだろうが、アレが神器であることも双葉が青くなった理由だろう。


「大丈夫だ。アレの魔力パターンなら覚えているから探知できる」

「ほんと?」


 双葉がほっと胸をなでおろした。


 見つけるのは難しくないので問題無い。

 だが、たいして風の抵抗を受けるわけでもないカチューシャが、ジェットコースター程度で飛んでいくだろうか?

 それに誰も気付かなかったというのも不思議な話ではある。

 コースターの席は最後尾だったので、後ろの席の人に直撃ということはなかっただろが……。


 とにかく、魔力探知をしてみるか。

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