第177話 10章:テーマパーク(6)
「あれえ? 難波君じゃない?」
双葉と並んでベンチでチュロスを食べていると、渡辺があらわれた。
「人違いだ」
「ほんとにそうやってはぐらかす人、初めて見たよ!?」
「一人で来てるのか?」
「キャットミーランドに一人では来ないでしょ……」
「ガチな人は一人で来るかもしれないだろ」
「まず想定するのがガチな人ってあたりが難波君だよねえ」
褒められてないことはわかるぞ。
「クラスのみんなと来てるの」
渡辺が視線を向けた先には、5人の男女がいた。
たしかにクラスの連中だ。
わかりやすいほどの陽キャ組である。
その中には鬼まつりもいる。
渡辺率いる陽キャ組と、鬼まつり達ギャル組はそんなに仲良くなかったはずだが、最近あの二人、よく一緒にいるんだよな。
「難波君にも電話したんだけど、ずっと留守だったみたいだったんだよね。妹ちゃんに伝言頼んだんだけど」
オレがちらりと双葉をみると、双葉はしれっと空を眺めていた。
この顔……わざとだな?
理由はわからんが。
「こいつがその妹だ」
「双葉です。お兄ちゃんがおせわになってます」
ベンチから立ち上がった双葉がぴょこんと頭を下げた。
「やーんかわいい! 難波君の妹ちゃんとは思えない!」
「どういう意味だよ」
気持ちの良い台詞ではないが、じょうだんのつもりなのだろうし、こちらの事情も知らないだろうからしょうがない。
双葉が一瞬眉をひそめたが、すぐ笑顔に戻った。
「そういや、電話番号なんて教えたか?」
少なくともオレが直接教えた記憶はない。
「何言ってるの? クラスの連絡網に載ってるじゃない」
昔はそんなものもあったな。
未来では個人情報保護のため、死滅した文化だが。
「あの、難波……。良かったら一緒に遊ばない?」
こちらにやってきた鬼まつりが、おずおずと誘ってきた。
「ごめんなさいお姉さん達。今日は兄妹で水入らずなんです」
そこで間髪入れずに割って入ったのは双葉だった。
「そ、そっか。ごめんね……?」
双葉の『圧』を伴った笑顔に、たじたじになる鬼まつりである。
「お兄ちゃんってモテるんだね」
渡辺達と別れてしばらくすると、双葉がそんなことをつぶやいた。
機嫌が悪いんだか良いんだかよくわからん顔で睨み上げてくる。
「どうだろうな……」
鬼まつりには好かれている自覚があるので、なんともとぼけにくい。
「うわ……余裕ってやつ?」
双葉がぷくっと頬を膨らませた。
これは何を言ってもだめなヤツだ。
オレは肩をすくめることしかできない。
とりあえず人混みではぐれないよう、双葉の手を引いて、次のアトラクションへと向かう。
「うぅ……こんなことでごまかされな……むぅ……」
双葉はなにやらうなっているが、手をつないだだけで喜んでくれているのだとしたらまあいいか。
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