第168話 9章:ラブレターフロムギリシャ(25)
「ならば……っ!」
ハーデースが自身を中心にバリアのような結界を展開したと同時に、その体が内側からぼこぼこと押し出されるように変形を始めた。
魔力解放に伴う肉体の変化だ。
変身の隙を結界で防いでいるようだが、まだオレをなめている。
そちらが変身に時間を割くということは、こちらも魔力をためる時間があるということだ。
オレは剣に全力で魔力をこめつつ、スサノオ戦で使った体内魔力の速度上昇も行う。
「はああああ!」
斬りかかるオレを、ハーデースは余裕の表情で眺めている。
よほどその結界に自信があるのだろう。
それが油断だというのだ。
オレの一撃は、音も無くハーデースの結界ごと、彼の体を左右に真っ二つにした。
剣閃は海を割り、さらに海底に数キロ単位の深い溝を作った。
ふと見回せば、神域絶界が解けている。
今の一撃を受けて、維持できなくなったか。
「神域絶界の次に固い我の結界を……」
「固いと言っても、理論的に斬れないものじゃないんだろ?」
神域絶界は絶対に斬れない。そういう存在だからだ。
時間を包丁で切れと言われても、何を言われているかわからないだろう。
そういった類いのものだ。
だが、ハーデースの展開した結界はかなり高度なものではあったが、結界系魔法の延長線上にあるものだ。
ならば、技術と力があれば破ることができる。
固いと言われるダイヤモンドも加工する方法はいくらでもあるのだ。
悠長に変身などしている間に、オレも力をためることができたしな。
こちらの世界にもどってきたばかりのオレでは、ここまであっさりと斬りすてることはできなかったかもしれない。
日々の訓練と、なによりスサノオとの戦いがよかった。
こちらの体を魔力に慣らすには、とてもよい荒療治になったのだ。
二つにわかれてもなお、ハーデースの体は変化を続けていた。
体の断面から魔力の触手が延び、互いに繋がろうとしている。
さすがはヴァリアント。
いや、ハーデースほどの魔力があればこそ、変身中の不安定な状況であっても、再生や変身を続けられるのだろう。
とはいえ、そのままにしておくつもりはもちろんない。
オレはハーデースの体を粉々に切り刻み、彼の下に回り込むと、空に向かって両手から火炎魔法を放った。
鉄の沸点を超える、3000℃以上の炎が、ハーデースの体をぼろぼろに焼き尽くした。
これでもなお、まだ燃え残りが出るのは、彼の魔力故か。
さらにオレは炎の温度と出力を上げ、塵すらも焼き尽くした。
炎の柱は成層圏を越え、人工衛星を破壊してしまった。
非常時だ、こういう時こそ組織になんとかしてもらおう。
高出力の技を連発したせいで、さすがに多少の疲労感がある。
だが今はそんなことよりも由依達だ。
みんな、生きててくれよ!
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