第142話 8章:ブラッディドリーマー(27)
オレは由依と並んで閉会式の会場となる体育館へと歩いていた。
学内に一般客が残っていないかを確認しながらだ。
全校生徒が同じ方向へと向かっている。
由依のように、クラスの出し物に関連した服装をしている者も多い。
「ありがとな難波!」「難波君のおかげだよ!」「あんな量を完売できるなんてな!」「いやあ、眼福だった」
そんな中、クラスの連中から声をかけられた。
こんなこと、最初の人生ではないことだった。
ちょっと……嬉しいもんだな。
体育館の入口で由依と別れたオレは、キャットウォークへと上がった。
ピンスポットライト係に軽く挨拶をしつつ、配置につく。
雰囲気にのまれて暴れ出す生徒がでないかを監視するのがオレの仕事だ。
閉会式では、放送部が作った学園祭中の映像がPV風に流された。
今日の風景もしっかりおさまっている。
いつ編集したんだ。
この頃はまだパソコンでの動画編集は一般的ではなく、ビデオテープを直接編集していたはずだ。
誰でもご家庭で動画を作れる時代ではなかったのだが、よくやるものだ。
そんなPVが終わると、クラス賞の発表だ。
そういやそんなものもあったな。
由依に楽しんでもらうのを優先していたので忘れていた。
売上や盛り上がりなどを実行委員が総合的に判断して決めるらしい。
といっても、実行委員長を中心とした数人による判断なので、オレは関わっていない。
三位から発表され、選ばれたクラスは大いに沸いている。
というのも、三位までに入賞すると打ち上げ用の補助券がでるためだ。
ちなみに一位は、そこそこお高い焼き肉店である。
これもスポンサー契約の一部だ。
二位まで発表された時点で、会場の空気が緩んだのがわかった。
もう一位の予想がついてしまったからだ。
「一位は、二年三組のユリミラ風喫茶です!」
それでも、発表の瞬間には大きな拍手が巻き起こった。
ステージ上のスクリーンには、放送部から向けられたカメラにより、リアルタイムで由依の笑顔が抜かれている。
そんな由依は、キャットウォーク上のオレを見つけると、こちらに向かってサムズアップ。
オレも同じようにしてそれに応えると、会場全体からブーイングがおこった。
いやいや、全校生徒からのブーイングは大概だろ。
実行委員権限でつまみだすよ?
閉会式のあとは、グラウンドでのキャンプファイヤーとフォークダンスという、おきまりと呼ぶには意外に実施されている学校は少ない気がするイベントだ。
キャンプファイヤーと言っても、それにみせかけた、灯油を使ったでっかいストーブである。
近隣からの苦情対策のためらしい。
こんな商品あるんだな。特注品かもしれないが。
自由参加のフォークダンスには、踊る相手のいる生徒だけが参加する。
ほとんどがカップルだが、中には同性同士で参加する強者もいる。
それがガチカップルなのか、フォークダンスに参加したいだけだったのかはわからないが。
踊っていない生徒は帰宅するか、遠巻きに眺めているだけだ。
遠巻きに眺めている者達は、今からでも誰かを誘おうと狙いを定めている者、誘われるのを待つ者など様々だ。
ちなみに、由依のまわりには彼女を誘いたい男子の輪ができている。
しかし断られるのがわかっている彼らは、コスプレイヤーの囲み撮影のように、一定の距離を保っているだけだ。
由依が一歩動けば、その円も一歩動く。
さすがの由依も少々困り顔である。
一方、実行委員は彼らを監視するのが仕事だ。
扱っているのが火だけに、危険なことを始める生徒が出ないようにするためである。
実行委員はフォークダンスへの参加禁止なのだ。
「あの……難波君……」
そんな中、オレに声をかけてきたのは宇佐野だった。
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