第124話 8章:ブラッディドリーマー(9)

「とまあ、こういう感じで作ってみてくれ」

「ふわぁ……ほんとに色々知ってるんだね」


 商店街での仕事を終えたオレと宇佐野は、学校のパソコン室にいた。

 ホームページの作り方を、実戦形式で宇佐野に伝授する。


 それにしても、この頃の回線速度とマシンスペックだと、画像一枚表示するのも一苦労だ。

 カウンターも設置しておくか。

 いつの間にかなくなったよなあこの文化。

 キリ番ゲットやら、掲示板での挨拶やら懐かしいな。


 インターネットが一般に普及してないということは、見る人が少ないとも言える。

 ホームページを作っただけで、集客できるなんて甘いことを考えているわけではない。

 『はれきりん』や『ツヴァイちゃんねる』での自演も考えたが、それらはまだ存在していない。

 上手くいくかはわからないが、布石の一つというやつだ。

 やれそうなことは全部やらないとな。


「よし、作業はこんなもんだな」


 作りは極めてシンプルだが、由依と渡辺の写真が載っていることが大事なので、細かいことは言いっこなしだ。

 回線速度を考えると、むしろこれくらいの方が良い。


 大学の学園祭と言えば、芸能人を呼んだりするのが定番だ。

 高校でそこまでの予算を持っているところは少ないが、今年は地元FMラジオのアナウンサーを呼ぶことになっている。

 ラジオパーソナリティーとして、そこそこの人気を誇っている。

 中でも恋愛相談が切れ味抜群ということで、中高生男子からの人気が高いお兄さんだ。

 実行委員としてコンタクトをとるのはオレの役目だった。

 ちょっとその立場を利用させてもらおう。


 オレはそのパーソナリティーのラジオにハガキを送った。

 内容は、学園祭に来てもらえるお礼と、高校生が自分達で学園祭専用のホームページを立ち上げたという内容だ。

 この当時、そういった活動は珍しく、深夜ラジオで取り上げてもらえる可能性が高いネタだった。

 もちろん、由依と渡辺の写真も貼り付けておいた。


 二日後のラジオで、狙い通りオレのハガキが採用された。

 一回目の人生におけるラジオでの初採用は、当時好きだった声優さんに捧げたのだが……この際しょうがない。


 この他にも、服部に演劇部よりもこっそり優先して作ってもらった2着の制服を由依と渡辺に着てもらい、商店街に出向いたりもした。

 協力してくれるお店にポスターを貼りにいくためだ。

 二人について来てもらうことによって、お店からの「あとで貼っとくよ」を避けるためである。

 そのパターンだと、忘れられることうけあいである。

 作戦は功を奏し、各店舗の一番目立つところや、外に向かった窓を使わせてもらえることになった。

 得に由依の持つ万人を虜にする雰囲気は、大人達を頷かせるのに十分だった。


 それに加え、ユリミラにそっくりな制服を着て商店街を歩くことによって、大きな宣伝にもなった。

 こういった時に役立つのは渡辺だ。

 「バイトしてるから来てね」であったり「学園祭当日もよろしくね」などと、道行く人と気軽に話している。

 このあたりのナチュラルなコミュ力は、根が陰キャであるオレにはなかなか真似しにくいものだ。

 やってやれないことはないが、なかなかにストレスフルである。

 これを自然にできるのはすごいことだ。


 由依達にはバイト先を紹介するティッシュ配りなども行ってもらった。

 これは純粋にユリミラに客を集めるためだけの内容で、経費はユリミラ持ちだ。

 秋葉原でメイドさんがティッシュを配っていたのを真似たものである。


 さらに、ホームページでは由依達に日記を書いてもらっている。

 バイト先でのちょっとした出来事や、クラスでの準備などを写真つきで載せたのだ。

 まだブログなんて発想がなかった時期だ。

 彼女達の可愛いさに加え、物珍しさやラジオや商店街での宣伝も手伝って、閲覧カウンターはかなりの数を叩き出した。



 そうして、売上を2倍にするという約束の期日がやってきた。


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