第105話 7章:オレにとってはぬるキャン△(9)

◇ ◆ ◇


 オリエンテーリングは、全員合格という結果で締めくくられた。

 八年ぶりの快挙ということだ。

 殆どの年は、1チーム合格するかしないかという結果となり、日が暮れる前に、発煙筒に仕込まれた発信器を頼りに、救助が行われるそうだ。


 なお、イノシシ猟については、解禁期間以外であることについて、コーチから指導をうけた。

 今回の件は手捕りであることや、キャンプ場の区画内へのイノシシ側の侵入であることなどから、罪には問われないだろうとのことだ。

 「こんな指導をする日がくるとは思わなかったが、一応な」

 とコーチも驚いていた。


「やったカズ! さすがだよ!」

「うん! さすがあたしのお兄ちゃん!」


 由依と双葉が両側からオレの腕に抱きついてきた。

 片方はとても柔らかく、片方はまあ……それもステータスだ。

 オレを貫く殺意と疑問の視線も、いつもの2倍である。


 オリエンテーリング終了後、山の中腹にあるキャンプ場まで下りてきたオレ達は、少し早めの晩ご飯ということでバーベキューを始めた。

 もちろん火おこしからである。


「あっという間に火がつきましたねアニキ! さすがですアニキ!」


 山からおりてきて、一位の賞品である豪華山の幸詰め合わせ&松阪牛を参加者全員に配ると、真田はオレをアニキと呼び始めた。


「なんだその、アニキってのは」

「そりゃあもう、サバイバルの達人にしてイノシシを狩る最強の男! そして、下々に食料を分け与える大きな器! これをアニキと呼ばずしてなんと呼ぶんすか!」

「普通に名字でいいだろ」

「そんな! 恐れ多いです!」


 どういう価値基準なんだ。恥ずかしいんだが?


「アニキ! こっちの肉が美味そうですよ!」

「まだ生焼けだ」

「カズには私がついてるから、真田君は双葉ちゃんと一緒に食べたら? チームなんだし」

「いいえ、ここは兄妹でやります。

 白鳥さんこそここでしか会えない人と交流したら良いんじゃないですかね」


 由依と双葉がバチバチやりあう光景にも慣れてきたな。


「こらそこ! アニキに分けてもらった食材だ! 大事に食べろよ!」

「おう、真田! 一位とかすげーじゃん」


 恥ずかしい張り切り方をしている真田の肩を、彼の友人らしきちょっとチャラめの男子が拳で小突いた。


「野球部だからな! ……と言いたいところだが、アニキ達のおかげだよ」

「ど、どうしちまったんだ真田。野球がヘタクソなヤツは、センパイでもバカにするお前が。あの人、野球がウマいのか?」

「いや、それはわかんねえけど、とにかくすごいんだよ。木の上をひょいひょいって走っていくし、罠も銃もなしにイノシシ倒すし」

「白鳥さんがすごいのはまあ納得できるけど、あのにーちゃんに関しては盛りすぎだろ……」

「ほんとなんだって!」


 そんな騒ぎもありつつ、バーベキューはお開きとなった。

 山中のキャンプ場なので、お決まりのキャンプファイヤーなどはなしだが、小さな焚き火と、そのそばに立つコーチを、40人の男女が囲む。


「今年の敢闘賞は間違いなく白鳥、難波チームだな。みんな拍手!」


 大きな拍手がオレ達四人を包む。

 なんだか照れるが、オレ以外の3人は堂々としたものだ。こういった場面に慣れているのだろう。

 ブラックリーマン時代はもちろんこんなことはなかったし、あちらの世界では凱旋などする間もなく戦い続けてたからな……。


「本来ならここで、オリエンテーリングで打ちのめされた諸君に、リーダーについてありがたい話をするところなのだが、正解を引き当てた君たちは、既に存分に学んだと思うので、簡単に済ませようと思う」


 長い話を聞かずに済むとわかり、何人かがオレ達に向かって親指を立てた。


「代わりに、この山に伝わる怪談を聞かせてやろう」


 そう言ったコーチによる怖い話は大変盛り上がった。

 なんでも、この山は戦国時代、部下の裏切りにあった数百人の侍達が立てこもり、全員が死ぬまで戦ったという。

 それ以来、この山には侍の霊がでるとかなんとか。

 まあ、よくある怪談の類いだったが、怖い話が苦手な何人からは、恨みがましい視線をもらってしまった。


 そんなこんなで、一日の最後は肝試しらしい。

 なんか、オリエンテーリング以外は、普通に遊んでるだけでは……?

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