第100話 7章:オレにとってはぬるキャン△(4)

 コーチの合図で、1割はおたつき、3割はまず荷物を置きにロッジへ、残りはチームを組むために動き出した。


「お兄ちゃん」

「ああ、組もう」

「うん!」


 そんな中、双葉が黒髪のツインテールを揺らしながら、まっすぐこちらにかけてくる。


「由依も良いよな?」

「問題ないわ。これ以上の戦力はないでしょうし」


 由依も快諾してくれた。

 女子二人が目で威嚇しあっているのは……まあ、気にしないでおこう。


「双葉ちゃん、大丈夫なのか? このにーちゃんヒョロそうだけど」


 オレを睨みながらそう言ってきたのは、丸刈り長身の少年だった。

 いかにも野球部といった雰囲気だ。

 偏見なのは認める。


「下の名前で呼ばないでって言ってるでしょ。真田君」

「人を見る目は養った方がいいわよ」

「え、こ、怖っ……? ごめんなさい……」


 女子二人に圧され、たじろぐ真田君だが、ちらりとこちらを睨むのも忘れない。

 オレに対抗意識を持っているようだが、この青さはかわいいとさえ思えるな。

 オレも幼稚園の頃、憧れていた先生の彼氏につっかかったことがある。

 真田君は幼稚園児ではなく、中学生だが。


「さて、ルールは理解したか?」

「したよ?」


 不思議そうに首を傾げる双葉。


「あんな簡単なルール、理解できないやつなんているのかよ」


 生意気な真田。


「たぶんね……」


 そして、思案げな由依。

 おそらく由依だけが、正解に近いところにいるだろう。


「なんだねーちゃん、頭悪いのか?」


 真田が由依を小馬鹿にしたように笑った。


「なあ、双葉。なんでこいつをえらんだ? ちょっとバカっぽいぞ」

「なにおー! これでも野球部で頭は一番いいんだ! 赤点はないんだぞ!


 わりとガチめに抗議の声をあげる真田である。

 発言が鬼まつりと同レベルなんだが?


「オレは頼りになる男だから――」

「希望者多数でくじびきになったんだよ」

「双葉ちゃん!?」


 これは尻に敷かれるタイプだ。

 双葉の尻には敷かせたりしないが。


「そもそもこのオリエンテーリング、がんばるか?」

「「「ええ……?」」」


 オレの問いに三人は、あきれた声を出した。

 ここに招集されるような連中は、基本優等生なので、そういう発想はないだろう。


「ぶっちゃけ、さぼっても何の問題もないわけだが。食料なら山でいくらでも獲れるし」

「カズならそうかもしれないけど……」

「まあお兄ちゃんなら……」

「え? 双葉ちゃんの兄貴って、キャンプの達人?」


 オレのことを知らない真田だけが首を傾げている。


「だけどまあ、せっかくなら勝ちたいよな」

「そうね」

「だよね!」

「おうよ!」

「それじゃあ、完全勝利を目指すとしますか」


「お兄ちゃんが本気だしたら、すぐ終わっちゃうんじゃない?」

「そういう意味での本気は出さないさ」


「おいおい、男なら常に本気でやろうぜ」


 真田が自分の掌を拳でパンと打ち鳴らした。

 うーん、これは正しく中学2年生!


「まあまあ。とりあえず荷物をおいたら、まだグズグズしてる連中と話をしよう」

「そうね」

「なんで?」

「なんでだ?」


 やはり由依はわかっているな。


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