第96話 6章:オレの義妹が戦い続ける必要なんてない(17)

 『組織』の本部から帰ってきたオレと双葉は学校を休んだ。


 午後から登校することも可能だったが、あれだけの戦闘を見せ、心と体にダメージが入った双葉を登校させる気にはならなかった。

 今はオレのベッドに並んで座っている。

 オレの肩に頭を預けた双葉の肩を抱き、治癒魔法でゆっくり妹の体を癒やしている。

 双葉に後遺症が残ることはなさそうだが、念のためだ。


「あったかい……お兄ちゃん、あんなに強かったんだね」

「まあな」

「いつから? 話してくれる約束でしょ」

「信じられないかもしれないぞ?」

「信じるよ。あんな力を見せられたら、なんでも信じる」


 オレは双葉に、由依と同じ説明をした。

 アラフォーまで生きたことはふせつつ、異世界帰りだということだ。


「異世界……そんなこと……。でも、お兄ちゃんが特異点だということを考えればありえるかも……」

「信じてくれたのか?」

「うん、何を言われても信じるって決めたしね」

「そうか、ありがとう」

「お礼を言うなんて、変なの」

「変だと思うか?」

「うん」


 双葉はきょとんとした顔で頷いた。


「そうか。いい子に育ったな」


 オレは双葉の頭をわしゃわしゃ撫でてやる。


「あんまり子供扱いしないでよね……」

「今までなら手を振り払われていたのに、随分まるくなったな」

「うぅ……だって、あんまりお兄ちゃんと仲良くなると、護る時に動きが鈍るかなって。ホントはね、仲良くしたかったんだ」

「そうか。苦労をかけたな」

「もう、老夫婦みたいなこと言わないでよ」

「え、そんな年寄りに見えるか?」

「冗談だってば」


 なんで双葉がちょっと恥ずかしそうなんだよ。

 夫婦って単語に反応した……とか?

 まさかな。


「ちょっとカズ! 無事なの!?」


 そこに窓から飛び込んできたのは制服姿の由依だった。

 学校から来たのか?


「あ、あなた達、ベッドで何してるの……?」


 由依は恥ずかしがっているような、怒っているような複雑な表情で、オレ達を指さした。


「聞きたいのはこっちなんだが。窓から入ってくるんじゃねえ。昭和ラブコメの幼なじみかよ」

「平成でもそんなヒロインはいるから大丈夫よ」

「そこじゃねえって」

「ちょっと! 他人のウチに勝手に入ってこないでください!」


 オレと由依の会話に双葉が強引に割って入ってくる。

 なんか相性悪いんだよな、この二人。


 そんな双葉をまあまあとなだめつつ、オレは由依に問う。


「無事ってどういうことだ?」

「えっと……」


 由依は双葉をちらりと見て口ごもった。


「大丈夫、双葉は全部知ってる」

「なんでそんな……あぁ……なるほどね……」


 その一言で由依はあらかた察したらしい。

 流石の頭の良さだ。


「日本組織が『何者かに』襲撃された上に、『特異点に手を出すな』って話がまわったらしいのよ。だからカズに何かあったんじゃって」

「随分耳が早いな」


 オレと双葉が本部を出て、まだ二時間も経っていない。


「そりゃ北欧組織だってスパイの一人や二人、潜り込ませてるもの。

 その調子じゃ、やっぱり一暴れしてきたんでしょ」

「さすが由依、スルドいじゃないか」

「スルドいじゃないかじゃないわよ! まあカズのことだから滅多なことにはならないと思うけど……次からは私も呼んでよね。相棒でしょ」

「残念ながら、これからお兄ちゃんの相棒はあたしがつとめます」


 いや、そこで張り合わなくても。


「妹のあたしなら、二十四時間お兄ちゃんと一緒にいられますし」

「弱っちいお子様が張り付いてたところで意味ないと思うけど?」

「単純な強さの比較なら、お兄ちゃんと比べたらどちらも大したことないと思いますよ。特殊な能力を持つあたしの方が有益だと思いますけど?」

「特殊ってなによ」

「言うわけないじゃないですか」

「く~! じゃあ私も一緒に住む!」

「なんでそうなるんだよ。二人とも落ち着け」


 オレはほんの一瞬、僅かな魔力を解放し、二人を威圧する。


「「はい……」」


 しゅんと二人は項垂れる。


「オレにとっては二人とも大切なんだ。仲良くしてくれ」

「「二股ってこと?」」

「急に変なところでそろわなくていいから! 友人と! 妹としてな!」

「「え~?」」

「お前ら、本当は仲良いだろ」


 あと双葉が妹なのは動かしようのない事実だからな。

 たとえ義理だとしてもだ。


「まあいいわ。カズが無事なのもわかったし、二人に何か食べるものでも作ってあげる」


 由依は履いてきた靴を手にぶら下げ、部屋を出て行こうとする。


「それはあたしが――」

「双葉ちゃんは体を治してもらいなさい。今日くらいは甘えていいから」

「う……あなたに許可なんてもらう必要は……」

「いいからいいから。お礼は今度の中高合同リーダーキャンプでお願いね」


 今度こそ由依は、鼻歌を歌いながら部屋を出て行った。

 あいつ、双葉の体内魔力回路が長の攻撃で乱れているのに気付いたのか。

 触れていない相手のそれが見えるようになっているなら、かなり修行の成果が出ていると言えるな。


「お兄ちゃん、リーダーキャンプに選ばれてるの?」


 中高合同リーダーキャンプとは、オレの通う高校と姉妹提携をしている双葉の中学が、毎年合同で行っている行事だ。

 各校からリーダーになりそうな生徒をピックアップし、キャンプ学習のなかでその資質を高めようという試みだ。


「いや、まだ決まってないはずだ」


 といっても、由依は選ばれるんだろうけどな。


「双葉は選ばれたのか?」

「うん……。神社の仕事もあるから、なんとか断ろうと思ってたんだけど……」

「その心配はもうないだろ。せっかくだから参加したらいいじゃないか」

「でも……」

「オレの心配ならもっといらないぞ。オレは双葉が色んな経験をしてくれる方がうれしい」

「そこで彼氏を作ってきたり?」

「いや、それはまだ早い。お兄ちゃんより強い男を見つけてきなさい」

「そんなの一生見つからないよっ!」


 嬉しそうに言うんじゃない。


「でも、考えてみようかな。白鳥さんに借りもかえさなきゃいけないしね」

「そうするといい」


 前の人生で、双葉はオレを護るためにその人生を全て使ってしまった。

 今度はオレが双葉の人生を護ってやる番だ。

 そのためには、オレも幸せにしているところを見せないといけないのだが……。

 魔族や神を倒すのより、下手すると難題なんだよな、それ。


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