第95話 6章:オレの義妹が戦い続ける必要なんてない(16)
オレはスサノオの生首を拾い上げ、治癒魔法をかけた。
しかし、ぼろぼろと崩れていくそれは、回復する気配が全くない。
「こんな状態で無理矢理魔力を使ったからな。どうやら治癒魔法も受け付けないらしい」
そう言うスサノオは穏やかな表情だ。
「神社でも、双葉を庇ったんだな」
あのときは、オレにカグツチを倒させるためだと思っていたが、それだけじゃない。
「……そう思うか?」
「娘、なんだろ?」
以前スサノオが言っていた、ヴァリアントと作った子供というのが双葉なのだろう。
長の特殊能力が双葉に通じにくかったのも、そのせいか。
おそらく相手はかつての妻だ。
どうしてうちの両親が育てることになったかまではわからないが。
「………………そうだ」
長い沈黙の後、スサノオは小さくそう言った。
「双葉には?」
「言わなくていい。知らない方が幸せだ」
「長は気付いていたようだぞ」
「知っているのは、日本神話系ヴァリアントと『組織』それぞれのトップだけだ」
二人も知っていたのだとすると、おそらく他にも知る者はいるだろう。
情報とはそういうものだ。
「頼まれても言うつもりはなかったがな」
「それでいい」
オレの言葉にスサノオは小さく笑った。
「僕にも親のまねごとみたいなことができたかな」
「なんだ、親になりたかったのか?」
「そう聞かれると困るな。興味があったのは確かだけどね」
「そう思えるならきっと、オレよりも人間的な親心をもってるさ」
「そうか……キミは優しいね」
「どうだかな」
いい人、なんて言葉はなんども言われてきたけどな。
きっとそれは前に、『都合の』という単語がついていたのだろう。
だからブラック企業なんかでこき使われることになったのだ。
「あんたは言うほど非情じゃないように見えたけどな。他のヴァリアントとは随分違うみたいだ」
「変わり者だとはよく言われたけどね。人間だった頃の記憶と、ヴァリアントになってからの欲望。
この複雑な精神状態がいったい何なのか見極めて見たかった。
だけど、どうやらもう時間がないみたいだ」
スサノオの生首が、ボロボロと崩れていく。
「キミの妹に最初で最後のプレゼントをしても良いかい?
そんな資格はないとわかってはいるのだけど」
「あんたの娘だ。好きにしろ」
「娘……。そう言ってくれるのか、ありがとう」
「勘違いするなよ。あいつの親は、オレの両親だ」
「わかっているさ……キミとはもっと色々話してみたかったんだけどね。残念だ」
「オレはこの世から一人でもヴァリアントが減ってせいせいするが」
「僕のことを『一人』と数えるところに、キミの優しさと甘さが見えるね」
「忠告はありがたく受け取っておくよ」
「賛辞のつもりだったんだけどね。さあ、時間だ。じゃあね……さよなら……だ……」
紫色の砂となったスサノオの首から小さな光が生まれ、ふらふらと双葉の方へと飛んでいく。
その光は双葉の胸にすっと吸い込まれていった。
命を捨ててまで双葉を護ったんだ。
あんたは間違いなく、父親だったよ。
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