第86話 6章:オレの義妹が戦い続ける必要なんてない(7)
姿を消したまま白衣の男と政治家達に近づいたオレに向かって、低鬼が唸り声を上げた。
低鬼はこちらに気付いている。
オレ自身は魔力をおさえているが、双葉は違う。探知されたか。
「ここにいるのか!?」
――ジリリリリリ!
白衣の男が手元のボタンを押すと、非常ベルの音と同時に天井から青色の雨が降ってきた。
「うわ! なんだこの水は!」
政治家達が手で頭を覆う。
降ってきたのは酸でもなんでもなく、着色されただけの水だ。
密度の高い雨の中、オレと双葉のまわりだけ、ぽっかりと空間ができた。
その時点で、透明化の魔法が解ける。
対透明化能力のしかけか。
この手の魔法は、相手に存在を認識されると、自動的に解けることが多い。
オレが使ったのもそれだ。
こんなことまで想定されているとは、低鬼以外のヴァリアントに対する知識も持っているということか。
だが、ここにいるとバレたところで、彼らが辿る結末は変わらない。
オレは政治家二人のみぞおちに拳をめりこませた後、白衣の男の延髄に手刀を落とし、三人を気絶させた。
低鬼がこちらに向かって体当たりを繰り返しているが、強化ガラスに阻まれる。
「お前に恨みはないが……」
低鬼に向けたオレの指が一瞬発光すると、強化ガラスと低鬼の額に、指先ほどの穴があいた。
一瞬間をおいて、低鬼の体がオレの送り込んだ魔力によって砕け散る。
「うわ……びしょ濡れだな……」
魔法で温風を作りだし、オレと双葉の周りに弱い竜巻を作り出す。
一瞬で衣服は乾いたが、青く染まってしまったのはしょうがないな。
金色の野に降り立つ予定はないんだが。
「高威力魔法だけじゃなく、こんな微調整まで……。なんだかもう、何をしても驚かないけど……」
一度に色々おきすぎて目が点になっている双葉からいったん手を離し、オレは近くにあった端末を操作する。
CRTディスプレイが懐かしい。
つい先ほどまで操作されていたらしく、パスワードはかかっていない。
「お兄ちゃん、あまり一カ所にとどまってると危ないよ」
双葉の言うことは正しいが、研究者の端末にアクセスできる機会などそうはない。
オレは双葉を手で制すと、端末の操作を続けた。
バカな……。
あいつらこんなことまで……。
さすがに重要なファイルへのアクセスはロックがかかっていたが、いくつか重要な情報を得られた。
その中でどうしても一つ、確かめなければならないことがある。
この建物の見取り図は……あった。
アクセス範囲は限られているが、目的の場所はわかった。
双葉を抱え上げたオレは、廊下を駆ける。
途中、強化ガラスが開き、何匹かの低鬼が出て来たが、瞬時に蹴散らす。
ここの真下だ。
オレはこれまでと同じように床に穴をあけ、ゆっくりと降下する。
そうして、オレ達の目の前に現れたのは、透明な液体の入った円筒型ケースに入れられた生首だった。
「やあ、こんなに早く再会することになるとは思わなかったよ」
生首は、口からこぽこぽと泡を出しながら、柔和な笑顔でそう言った。
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