第69話 5章:ドラッグ オン ヴァリアント(26)

 背丈を超える大剣と化した草薙の剣を、肩にかつぐようにして構えたスサノオが突っ込んで来る。

 体積にして十倍以上になったはずの剣は、先ほどよりも高速で振り下ろされた。

 オレは魔力弾をあきらめ、両手で持ちなおした剣でそれを受ける。


 一撃が重い……っ!

 オレはとっさに剣に角度をつけ、スサノオの一撃を受け流した。


 大剣による連撃が、まるで竜巻のようにオレを襲う。

 今度はオレが圧される番だ。


 これまで戦ったどのヴァリアントよりも、圧倒的に強い。

 トールやロキならば瞬殺できるだろう。


 現状で五分。

 いや、このまま膠着状態を続けていては不利だ。

 あちらには援軍が来る可能性がある。


 どの手でいくか……。

 ほんの僅かな間、思考に意識を取られた瞬間、オレを囲むように出現した真空の刃が襲いかかってきた。

 草薙の剣による追加効果か!

 スサノオの斬撃で発生した真空の刃が、不規則な軌道でオレに向かってきている。


 前方のスサノオ、後方に真空の刃。

 オレはスサノオの剣を捌きながら、背中から翼状に魔力を放出。

 魔力の翼を羽ばたかせ、真空の刃を飛散させた。


 次々に発生する真空の刃を魔力の翼で散らせつつ、翼から魔力の羽をスサノオに飛ばした。

 その多くは、暴れ回る草薙の剣にたたき落とされるが、何枚かがスサノオの体に突き刺さった。


 羽が刺さるたび、スサノオの動きが鈍くなっていく。

 この羽には、相手の体内魔力回路を乱す効果がある。

 見たところ、草薙の剣はオレが自分でしているのと同様に、所持者の体内魔力をブーストすることで、動きを強化している。

 ならばそれを乱してやれば良い。


 一度は押し返されたオレだが、再びこちらのペースである。

 このまま壁際まで追い詰め、魔力の翼で上と左右の逃げ道を塞いで押し切る!


 互いの間には火花、オレの周りには翼が真空の刃を打ち落とした際に発生する瞬き。

 あまりの高速な攻撃に、端からはチカチカと光っているだけにしか見えないだろう。

 だが、確実に、一歩一歩、オレはスサノオを追い詰めていた。


「――――――!」


 あと一歩で再び壁際というところで、スサノオが吠えた。声は聞こえないが。

 長く伸びた髪と目が赤く光り、一瞬にして魔力がさらに爆発的に増大した。

 同時に、肩胛骨あたりから生えた角のようなものから、紫色の蒸気が噴き出す。


 捨て身の攻撃に出やがった!


 消え――


 そう認識したときには既に、スサノオの刃はオレの額に触れる直前だった。

 オレは倒れこむようにしてなんとか避ける。

 斬られた髪が地面に落ちるより早く、大きくくずれた体勢のまま、足払い。

 今のスサノオにダメージを与えられるわけではない。

 地面に杭でも打っているかのように動かないスサノオのふくらはぎを蹴る勢いを利用し、床を滑って距離を取った。


 間髪入れずに、スサノオはオレを追って床を蹴った。

 跳ね起きたオレは、スサノオの斬撃を剣で受け流しながら、その勢いを利用して着地しつつ体勢を整える。

 その時点で、既にスサノオはオレの背後へと切り抜けている。

 背中に迫る斬撃を見ずに、体を捻って避ける。その動作を利用して、裏拳を放つも、スサノオは僅かに状態を反らすことで、紙一重で避けた。

 さらにその全身から発せられる魔力は、物理的な現象としてこちらに衝撃を与え続けて来る。

 まるで強風の中で戦っているようだ。


 強い!

 バイキンを模したキャラクターと同じ声をした帝王が、物語初期の地球に現れたかのようなバランスブレイカーだ。


 こういった敵には、大技で一気に倒しきりたいところだが、このスサノオを倒すほどとなると、余波だけで由依にかけた防御結界を破ってしまう。

 そして、由依がまだ目覚めないなら、これ以上、下がるわけにはいかない。


 しかし、スサノオは大剣を片手で振り回しながら、もう片方の手には魔力で生成した紫色に輝く刀を手にした。

 威力のほどはわからないが、ちょっとした神器なみはありそうだ。

 大剣と刀が別々の生き物のように襲いかかってくる。


 これならダークヴァルキリー1万体を相手にしていた方がよっぽど楽だ。


 しかたない。

 これは本当にやりたくなかったのだが……。


「2倍でだめなら3倍だ!」

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