第51話 5章:ドラッグ オン ヴァリアント(8)
「ねえカズ、あれ撮ってみよ。一回やってみたかったの」
由依が指さしたのは、プリントクライマックス。通称プリクラだ。
ブースに入って写真を撮ると、それがシールとして排出される。
携帯に撮影機能がついてからは下火になった印象が強いが、「JKと言えばプリクラ」という時代があった。
「どうだった? あやしい人はいた?」
ブースに入ると由依は初めて触れる筐体の操作方法に戸惑いながら、小声で話し始めた。
「格ゲーに夢中になってるだけじゃなかったんだな」
「あ、あたりまえ……だよ? ゲームセンターって、女子は少なそうだったから、目立っておけば情報収集にも役立つかなって」
目が泳いでいるが?
「少なくとも、ヴァリアントは見つけられなかったな」
もちろんオレも由依の活躍をぼけっと眺めていたわけではない。
注意深く周囲を探っていた。
「そっかあ。私の神器は、人間に擬態されちゃうと探知できることは殆どないから、カズ頼りになっちゃうんだよね」
「神器はあくまで武器だからな。しょうがないだろ」
対象の情報が少ない場合の探知は、単純にレーダーの精度だけの問題ではなくなる。
なにせ、何を探せば良いかわからないのだ。
どうやって何をを探知するかという、経験に基づく勘のようなものが必要になる。
「初日に見つかるようなものでもないよね」
「そういうことだ。由依の訓練を続けながら、地道に探すしかないな」
スサノオが露骨な誘導をしてきた以上、近いうちに何かありそうだがな。
「ほら撮るよ。笑顔、笑顔!」
筐体からはとびっきりの美少女と、引きつった顔をした男子が並ぶシールが出て来た。
何年生きても、写真で笑顔を作るのは苦手だ……。
「半分渡したいんだけど、ハサミなんて持ってきてないのよね。そうだ、グングニルで」
「やめろやめろ」
こんなところで足を振り回す気か。
オレは指先に小さな真空の刃を作り、マス目状に写真がプリントされたシールを、ちょうど半分にした。
「魔法って便利ね」
「こっちに戻ってきて、初めてそう思ったよ」
「えへへ、カズとのプリクラだ」
そこまで嬉しそうにされると、すごくむずがゆいんだが。
変な顔で写ってるし。
「そろそろ補導されちゃう時間かな」
そうか、高校生のゲーセンの出入りには時間制限があるんだったな。
「今日は帰るとするか」
「うん、また明日ね」
「明日は別のゲーセンだ」
「家でもセイヴァーのイメージトレーニングしてくるね」
「そんなことより、神器の扱いを練習してきてくれ」
「冗談よ。夜の特訓の約束、忘れないでね」
「もちろんだ」
オレは由依に稽古をつける約束をしていた。
もちろん、由比自身を鍛えることで、彼女の生存確率を上げるためだ。
いったん家に帰り、こっそり合流する手はずになっている。
問題は場所だ。
白鳥家をまた使うのはちょっとな……。
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