第47話 5章:ドラッグ オン ヴァリアント(4)
「待っている」ときかなかった由依がいる教室に向かうと、中から騒ぎ声がきこえてきた。
「なーあいいだろう? あんなオタクより楽しませてやるからさあ。ひゃっはっは!」
教室に入ると、茶髪の男子生徒が由依ににじりよっているところだった。
地毛と言い張れなくもない微妙な染め方が、この学校の生徒らしいといえばらしい。
だが、男子生徒の目が気になる。
つねに焦点が定まらずふらふらさまよい、足取りも危うい。
由依が眉をひそめ、警戒しながら下がるのもわかる。
「どうした?」
オレの声に二人が振り向いた。
「カズ、この人ちょっと普通じゃない」
窓際まで下がった由依が、いつでも神器を発動できるよう、太ももに指を添えた。
「ああ、わかってる」
あちらの世界で何度も見た、薬物中毒の症状に似ている。
「おいおいおいおい! 邪魔すんなよ! 青春告白タイムなんだぜえええ!」
これは完全にキマっているな。
最高にハイってやつだ。
食欲が先に来ていないし、魔力も感じられない。ヴァリアントではなさそうだ。
薬物は使うなと、義務教育で習った記憶はあるが、実際にヤク中の人間、それも高校生を見るのは初めてだ。
もっと荒れている高校ならまだしも……というのは偏見なのだろう。
ふとしたきっかけで接点を持つことがあるから怖いという話なのかもしれない。
「悪いが告白タイムは中止だ」
「ああん? オレは気持ち良くなりたいんだよ! 邪魔すんな!」
男子生徒の注意がオレに向いたのを確認すると、由依に目配せをした。
――ゴッ!
由依がすかさず繰り出したハイキックが、男子生徒の延髄にめり込んだ。
たまらず白目を剥いて昏倒する男子生徒。
オレの視点からは、ミニスカ黒タイツのハイキックという眼福イベントだが、神器起動前とはいえ、あの鋭い蹴りを食らってはたまったものではないだろう。
頭を打たないよう、彼が倒れる速度は風魔法で遅くしてある。
由依にちょっかいをかけてこの程度ですんでいるのだから、感謝してほしいものだ。
「大丈夫だったか?」
「うん、平気」
倒れた男子生徒を迂回するように、由依がかけよってきた。
「はっ!? ちがった。い、いやーんこわかったよっ?」
「無理すんな」
急にどうしたんだよ。
「そうだね……」
恥ずかしそうにうつむく由依である。
何に影響されたのやら。
「何があった?」
「カズを待ってたら、この人が急にやってきたの」
「知り合いか?」
「いいえ」
由依が知らなくても、由依のことを知っている生徒は学内外にたくさんいる。
人気者の辛いところか。
「おや、どうしたんだい?」
そこにやってきたのは、つい先ほどまでオレと話していたスサノオだ。
オレは視線でちらりと男子生徒を指した。
「薬物中毒者か」
男子生徒の横にかがみ込んだスサノオが、瞳孔を調べている。
現国教師のやることじゃないんだよなあ。
「難波君、ちょっとこの薬物の入手経路について調べてみないか?」
スサノオは教師が生徒にするものとは思えない提案をしてきたのだった。
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