第44話 5章:ドラッグ オン ヴァリアント(1)
■ 5章 ■
教壇では、鳴山――いや、スサノオが低く渋い声で授業を進めている。
そのダンディーな魅力に女子達の目はハートだ。
それにしても、めっちゃわかりやすい。
これまでのどの教師よりも話がうまく、生徒の理解度の把握も早い。
時折雑談も交えながら、生徒の興味を引いていく。
どうやらヴァリアントのもつ人払いの効果は、任意で停止できるらしい。
人間のフリをしている時は発動しないだけかもしれないし、全員ができるのかは知らないが。
オレの背筋を冷たい汗がつたう。
スサノオが昨日の今日でオレの学校を突き止めたことはまだいい。
ヴァリアントなら、いつもの現国教師を排除するのも簡単だろう。
だが、教師として雇われるのはそうはいかない。
どんな手を使ったのか……。
社会に影響力を持つのは、『組織』だけではなくヴァリアントもということか。
いや、ヴァリアントがそうであるからこそ、組織もまた力を持つのかも。
連中の影響力もさることながら、何よりオレに冷や汗をかかせているのは『教師をできるほど、人間を理解している』ということだ。
廃ビルの一件で、人間社会にある程度溶け込んでいるヴァリアントがいることはわかっていた。
だが、教師をできるほどとなれば話は別だ。
スサノオの頭が特別良いのか、長く生き延びているのか……。
いずれにせよ、スサノオのような個体がたくさんいるとするなら、人類にとってかなりの脅威だ。
そして最大の疑問は、なぜこんなに手の込んだことをするかだ。
オレが邪魔なら、家を襲うなり、やり方はいくらでもあるだろう。
そんなことを考えながら授業を受けていると、チャイムが鳴った。
「じゃあ今日はこんなところかな」
授業を終え、教室を出て行こうとするスサノオを女子達が取り囲む。
「先生彼女いるんですか!?」
「なんで急にこの学校に?」
「いつまでなの?」
「ずっと先生がいいなー」
「どう思う?」
そんな女子達を尻目に、オレの傍にやってきた由依が緊張した面持ちで囁いてきた。
彼がヴァリアントだと探知できたわけではないようだが、会話の内容からスサノオだと察したのだろう。
「狙いはわからないな……」
「そうよね……」
オレも由依も、スサノオから目が離せない。
「難波君、放課後に国語教員室に来てくれるかな?」
スサノオは自然と表情の険しくなるオレ達に目を向けると、よく通る渋い声で言った。
オレと由依は思わず顔を見合わせた。
「一人できてくれよ」
優しく、それでいて有無を言わせぬ圧力をかけてくる。
「えー? あたしが呼び出されたーい」
「あたしもー」
脳天気な女子達がまだきゃいきゃい騒いでいる。
「わかりました」
「一人でいいからね」
スサノオは満足そうに頷き、念を押してきた。
「カズ……」
「大丈夫だ」
心配そうな顔をする由依に、微笑んでみせる。
罠の可能性は高い。
だが、ここで逃げたところで得るものはない。
今のスサノオを見ればわかるが、魔力パターンが廃ビルの時と変わっている。
魔力を人間なみに抑えた上で、パターンも変えられるとなれば、ダークヴァルキリーを見つけるのと同じ手での探知は無理だろう。
虎穴に入らずんば虎児を得られないし、放っておけば虎に寝込みを襲われる。
ならば虎穴に飛び込むしかないだろう。
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