第28話 4章:パパ活ですか? いいえ、援交です。(1)

  ■ 4章 ■



 今日もお昼は由依と中庭のベンチでだ。

 すごく美味いんだが、相変わらず校舎から向けられる男子の視線が痛い。


 妹の双葉に「弁当は由依が作ってくれるからいらない」と言っておいたのだが、無理矢理持たされてしまった。

 いくら育ち盛りの体と言っても、二食分はきつい。

 カロリー消費のための筋トレが捗るなあ……。


「あのね、コレ受け取ってほしいな」

「ピッチか。懐かしいなあ」


 照れながら由依が差し出してきたのは、PHSだ。

 オレの記憶にある携帯やピッチに比べるとかなり大型である。

 スマホくらいのサイズがある。

 高校生の頃はこういうの持てなかったからなあ。

 97年といえば、まだポケベルも現役の頃である。


「これから一緒に戦うのだから、連絡手段はあった方が便利でしょ? 家の電話を使うわけにもいかないし。だから、じいやにこっそり契約してきてもらったの」

「一理ある。金はちょっと待ってもらっていいか?」


 今のオレならちょっと肉体労働でもすれば、数ヶ月分の維持費くらい出せるだろう。


「そんなのいいよ。私のお小遣いだけど、もとは家のお金だし」

「なおさらダメだ。由依の実家に借りは作りたくない」

「そっか……そうだね。うん、それが良いと思う」


 もう少し食い下がってくるかと思ったが、由依は納得してくれたようで、笑顔で頷いた。

 実家に思うところがあるからだろう。


 正直、スマホになれた現代人(未来人と言うべきか?)からすると、通信機器がないのは不便でしょうがなかった。

 契約まわりを対応してくれただけでも助かる。

 うちには今、未成年しかいないからな。


「それじゃあ番号交換しよ? えへへ、一度やってみたかったんだ」


 由依はキラキラした目で、ピッチの画面をこちらに向けてくる。


 電話番号の交換なんて久しぶりだ。

 メッセージアプリが流行ってからは、メールや電話なんて殆ど使わなくなったからなあ。


「ええと……この頃だと赤外線か?」

「なんで赤外線が関係あるの? 寒いの?」

「いやごめん、まちがった」


 そっかぁ、手打ちかぁ。


「ほら早く」


 由依がぐいっと肩を寄せてくる。


「これね! メールもできるんだよ! メール! メールもできるんだからね!」


 えらくメールを推してくる。

 メールなんて仕事でしか使わなくなって久しいが、この頃は最新ツールだったんだよな。

 97年だと、携帯でもピッチに遅れてメールが使えるようになった頃か?

 まだ『メールといえばピッチ』のイメージが残ってる頃かもな。

 色々懐かしいなあ。

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