第26話 3章:神って欲望にまみれたヤツ多いよな(9)
トールは全身に雷を漲らせたままタックルをかましてきた。
大型トラックの比ではないその運動量に全身の毛が逆立つ。
オレは剣を両手で上段に構え、そのまま振り下ろす。
「そんな細い剣で止められるものか!」
かまわず突っ込んで来るトールの額で一瞬剣先が止まりかけるも、オレはそのまま剣を振り抜いた。
――ドガシャァン!
オレの背後で真っ二つになったトールが、道場の瓦礫に突っ込んだ。
「俺様の肉体を斬るとはどんな剣だよ」
半分ずつになりながらも、トールはなんとか立ち上がろうとしている。
どっから声を出してるんだ。
復活するのをのんびり見ている理由もない。
オレは左の掌をトールの体にむけることで、手も触れずに空中へと持ち上げた。
「体が半分になっているとはいえ、俺様に傀儡をかけるだと!?」
「悪いがさよならだ」
オレはトールを空中に縫い止めたまま、一瞬で間合いを詰め、右手で剣を構えた。
「ちきしょう! 次にこっちに来たときはまた俺様と戦えよ! 次は最初から全力でや――」
最後まで言わせることなく、トールの体をダイスサイズまで粉々に切り裂いた。
さらに――
――ごうんっ!
地面からそれらを包み込むように火柱を吹き上げ、塵も残さず焼き尽くす。
「ふう。悪質なタックルだったぜ」
「良質なタックルってあるの……?」
渾身のボケが通じない!?
そういやこの単語はまだないんだったな……。
「ヴァリアントが人間を使ってこちらに出てきていたなんて……」
「今日のところは現象がわかっただけで、理屈は殆どわからなかったけどな」
自然発生なのか人為的なものなのかだけでも知りたかったんだがな。
トールクラスで召還者を探知できないのであれば、自然現象の可能性が高そうだが。
でもあいつ、ちょっとバカっぽかったからなあ。
「ねえカズ……あたしも、トールくらい強くなれるかな? 同じ足技主体で、私のグングニルだってオーディンを基にした武器。トールのミョルニルに負けないはずなのに、百倍以上は実力差があったわ……」
百倍という数字が合っているかはともかく、桁違いの実力差があったのは間違いない。
今はそれがわかっただけでも及第点だ。
「ヴァリアントは人間という『器』を破ってるからな」
「でもカズも人間でしょ?」
「まあな。由依もオレが改造する神器を使いこなせれば、トールレベルと戦えるようになるかもな」
「本当?」
「たぶんな」
絶対とは言えない。
地獄のような特訓を重ねた上で、よほどの才能があった場合にのみそれは可能だろう。
「由依お嬢様!」
その時、遠くから黒服の男が数人走ってくるのが見えた。
SPだろう。
「じゃあ由依、また明日学校で」
そう言い残すとオレは、宵闇へと飛んだ。
クラスメイトが二人死んだ。
そのことで殆ど心が痛まないのは、記憶が薄れ始めたせいだけではないだろう。
強さなんかよりも、身近な人の死を当たり前に受け入れてしまうことが、前の人生から一番変わったことかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます