第15話 2章:異世界帰りだと学校でも無双(6)

 あちらの世界で剣や槍を一通り使ってきたが、剣道については素人だ。

 相手を殺すための剣と、スポーツとしての剣道は全く別物である。

 それは授業で聞いた「一本」の判定ルールから明らかだ。

 気勢、姿勢、残心の三つがそろって初めて一本となる。

 これは、相手が死んだがどうかは関係ない。

 自分が傷つかず、敵を倒すことが最優先とされる実戦とは、似て非なるモノだ。


 さてどうしたものか。

 まず構えからして厄介だ。

 剣道で基本となる中段の構えというのは、オレの体に染みついたものとは違う。

 

 とりあえず授業で習った通りに中段で構えてみているが、なんとも違和感がすごい。

 まあやれないことはないだろう。


 加古川が面の向こう側でにやりと唇を歪めた。

 素人オタクなど、簡単に倒せると思っているのだろう。


 加古川は正面から面を狙ってきた。

 『素人』としては十分に速い一撃だ。

 だがオレはそれをあっさり横に避けた。


「え? 避けた?」


 驚いたのは審判の教員だ。

 普通なら竹刀で受けるだろう。


 これでも身体強化系の魔法は使っていない。

 体格は変わっているが、命がけで身につけた技術は裏切らないものだ。

 筋トレもしたしな。


 加古川の打突をオレは次々に避けていく。

 こいつ……わざと防具のないところを狙ってやがる。

 本当にろくでもないヤツだ。


 さて、相手は隙だらけだが……。

 剣道は斬るのではなく打つんだったな。


 こうか?


 ――ズドオンッ!


 加古川が大きく振りかぶったところ狙って胴を打つと、爆発でもしたかのような音が響いた。


「「「は?」」」


 その場にいた全員の目が点になった。


「ぐ……な、なんだ今の衝撃……?」


 加古川もまた呆然としている。

 まともに受ければあばらの二、三本も折れる威力のはずだが、剣道の防具というのはよくできている。

 小手や面は、防具をつけていてもかなり痛いが、胴は防具が硬質なせいもあって痛みはあまりない。


 今のは一本にならないのか?


 その意味を含んだ視線を審判に送る。


「こ、声を出しなさい」


 真剣であれば十分に人が死ぬ威力だったはずだが、面倒な話だ。

 そもそも、胴って一本になりにくいと授業で言っていたな。


「実は経験者だったとはな。油断したぜ」


 加古川はそんなことを言っているが、誤解もはなはだしい。

 オレが経験者だったら、今ので一本をとっている。


 さて、加減が難しいが、小手か面を狙ってみるとするか。

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