第8話 1章:異世界から戻ってきたと思ったら、十七歳の頃だった(7)


 由依が『組織』とやらに人間の死体処理を依頼した後、オレ達は場所を近くのビルの屋上へと移した。


「ビルの屋上までひとっ飛びってところで普通の人間じゃないことはわかるけど……どこから話したものかしら……カズが味方かどうかもわからないのよね……」


 夕方に話したときとは打って変わって、由依は強い警戒心を向けてくる。

 普通の人間だと思っていた幼なじみが、突然異常な強さを示せば当然だな。

 それはこちらとしても同じだ。


「いつからああいうのと戦ってたんだ?」

「……今日がデビュー戦よ」


 由依は少し迷ってからオレの問いに答えた。


「デビュー戦なのに一人で?」


 あちらの世界なら、よほどの理由がないかぎりパーティーを組んで挑む。


「日本駐在の北欧系組織で神器を扱えるのは私しかいないもの」


 今の一言で色々わかった。

 どうやらオレのいたこの世界には、ああいった異形と戦う組織が世界にいくつかあり、互いに協力はしていないということだ。


「その神器ってのはなんなんだ? もしかして由依がいつも履いている黒タイツがアレと戦う武器なのか?」

「ほんとに知らないのね……。正確には神器レプリカ。神クラスの『人ならざる者』を素材にして作った、人類が彼らに対抗できる唯一の武器よ」


 ヴァリアントというのは、ダークヴァルキリーのような異形の総称だろう。


「貴重なものなんだな」

「世界に数えるほどしかないわ。それに適応できる人間もね。そして、その才能は遺伝することが多いの。だから、数年前に適性ありと判断された私は、常にこの神器と共に生活し、体が慣れた今日、デビュー戦を迎えたというわけ」

「何も由依がそんな危ない目にあうことないだろ」

「そんなこと言わないで……。十二歳の時に適性を認められてから、これが使命だと生きてきたんだから」


 由依は悲しそうに目を伏せた。

 オレが気付かなかっただけで、十二歳からずっと?

 彼女と距離を感じ始めた中学生の頃からだ。


「もしかして、オレを護るためか?」

「あなた、本当にカズ……?」


 以前のオレなら、自意識過剰と思われるのが怖くてこんなことは聞けなかっただろう。

 だが、一度死に、異世界で地獄を経験したオレは、人生において『悩む時間』というのが贅沢なものであると知っている。


「確かにオレは難波カズだよ。だけど……」


 本当のことを言うべきか。

 言って信じてもらえるか。

 そして、由依を信じて良いのか……。


「今日、異世界に転生し、帰ってきた、難波カズだ」


 結局オレは、真実を話すことにした。

 オレがこの世界で信用すべきなのは、妹の他には彼女だと考えたからだ。

 こちらでアラフォーまで生きたということは、なんとなく伏せたが。

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