第44話
そして、夜羽が地元に戻ってきた日、新しく入院した病室には夜羽と私の家族が集められた。ちなみに
「皆さん、今日は僕のためにお集まりいただき……」
「そう畏まった言い回しはなしでいいよ。家族なんだろう?」
夜羽が緊張しながらも切り出そうとしたところで、お父さんが窘めた。一瞬、彼の目が潤んだのが見えたが、すぐに伏せられ「はい…」と頷く。結局、最初のお見舞いの時にどんな話をしたのか、後で聞いても教えてもらえなかった。男の約束だからって……除け者にされたみたいでちょっとムカつく。
「鶴戯に聞いたぞ、茂久市のガキ共を全員のしたんだってな。さすがは俺の息子……と言いたいところだが、ダチだからって不問にするあたり、まだまだ甘いな。そんなだから舐められて人質を取られんだよ」
観司郎さんとは初対面になるけど、夜羽がもっと幼い頃に会っていたら、絶対チビってたに違いない。これは、ヘタレてしまった彼をあんまり責められないな……
だけど今日の夜羽は、話に聞いていたのとは違い、怯える事なく真っ直ぐに父親を見つめ返している。
「そうです、僕は弱い。今回の件はそのせいで起こったと言ってもいい。だからこそ、いつまでも被害者ぶってるだけじゃダメだって気付きました。
……お父さん」
夜羽はベッドから下りて、父親と対峙する。本当はほぼ治ってきているので、もうすぐ通院に切り替えられるのだけど、大事を取って個室にしてもらっていたのだ。
「お父さんは何もしてくれなかったなんて、生意気言ってすみませんでした。僕は用意されていた家で、鶴戯にたくさんたくさん世話になっていたのに、一人で生きていたと思い込んでた。
鶴戯、本当にごめん。今まで育ててくれて、どうもありがとう」
「坊ちゃん……」
殊勝な態度で頭を下げる夜羽は、一見ついに実家に屈してしまったかのようだ。
が……
「それは、大人しく杭殿との婚約を受け入れるという事か?」
「いいえ、僕はミトちゃんが好きなので、杭殿さんとは結婚できません。ごめんなさい」
観司郎さんの問いに頭を上げた時には、憑き物が落ちたような笑顔になっていた。ここまでは既に夜羽が何度も訴えていた事なんだけど……
「……俺だって、若い頃はそう言って反抗したもんだ。だがな」
「家の事情は分かってます。もしどうしても断れずに、杭殿さんと結婚しなきゃいけないなら――僕を、角笛の家から勘当してください」
澱みなく言い切った夜羽に、お父さんの口元が、ニヤッとつり上がる。炎谷さんは驚き慌てていたし、観司郎さんもさすがにピクリと頬が引き攣っている。
私は……何も聞かされていなかった私は、あんぐりと口を開けた。
私のために、本気で家を捨てるつもりなの!?
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